「最初の見積もりでは10万円だったのに、車を分解したら15万円になったと言われた」
車の修理では、このようなことが実際にあります。
お客様からすれば、当然納得しにくい話です。
10万円でも大きな出費です。
それなら修理しようと決断して車を預けたのに、作業が始まってから、
「追加で5万円かかります」
と言われたら、
「最初の見積もりは何だったのか?」
「車を分解して断れない状態にしてから、金額を上げているのでは?」
と疑いたくなる人もいるでしょう。
では、分解後に見積もり金額が増えるのは、整備工場の説明不足なのでしょうか?
結論からいうと、分解しなければ分からない故障は確かにあります。
しかし、金額が変わる可能性を事前に伝えず、追加作業について了承も取らないまま修理を進めるのであれば、整備工場側の説明にも問題があります。
車の修理見積もりは、最初からすべてが確定しているとは限りません。
入庫した車を外から確認し、症状を聞いた段階で作る見積もりは、あくまで現時点で分かる範囲のものです。
例えば、
「ブレーキを踏むとゴーゴー音がする」
という車が入庫したとします。
外から確認した段階でブレーキパッドが減っており、ローターにも傷が見えた。
この時点では、ブレーキパッドとローターの交換を想定した見積もりを作れます。
ところが、実際に分解してみたらブレーキキャリパーのピストンもダメになっていた。
スライドピンも錆びて動かない。
ブレーキホースにもひびが見つかった。
そうなると、パッドとローターだけ交換して終わりにはできません。
そのまま組み付ければ、新品のパッドが再び片減りしたり、ブレーキが引きずったりする可能性があります。
最初の見積もりが間違っていたというより、分解したことで新しい異常が見つかったわけです。
車は、何万点もの部品で構成されています。
そして、多くの部品がカバーや別の部品の内側に隠れています。
タイミングベルトを交換するためにカバーを外したら、オイルシールからオイルが漏れていた。
ドライブシャフトブーツを交換するために分解したら、ジョイント内部へ水や砂が入り、すでに摩耗していた。
マフラーを外そうとしたら、フランジやボルトが錆びて崩れた。
事故修理でバンパーを外したら、表面からは見えなかった内部のリインホースメントまで曲がっていた。
こうした異常は、分解前に完全には確認できません。
人間の病院でも、検査を進めた結果、最初に考えていたものとは別の問題が見つかることがあります。
車も同じです。
外から見た状態と、実際に分解した内部の状態が違うことは珍しくありません。
特に古い車は追加部品が発生しやすい
年式の古い車や、融雪剤の影響を受けた車では、さらに金額を確定しにくくなります。
例えばボルトを1本外すだけでも、新しい車なら数分で済む作業が、古い車ではそう簡単に進みません。
ボルトが錆びて回らない。
工具をかけたら頭が崩れた。
何とか回したら途中で折れた。
折れたボルトを取り除くために、穴を開け直す必要が出た。
このようなことが起きます。
整備士は分解前に錆の状態を見て、
「これは簡単には外れなさそうだ」
と予測できます。
しかし、実際に外れるか、折れるかまでは作業を始めないと分かりません。
さらに、古い車では小さなクリップやパッキンが生産終了になっていることもあります。
本来は再使用できるはずの部品が、取り外した瞬間に割れてしまうこともあります。
新しい車なら一つの部品を交換して終わる修理でも、古い車では周辺部品まで交換しなければ元へ戻せない場合があるのです。
故障した小さな部品だけを交換したくても、メーカーから単体供給されていないことがあります。
例えば、内部の小さなスイッチやギヤだけが壊れているのに、その部分だけでは部品が出ない。
モーター、ブラケット、配線などを含めたASSYでしか注文できない。
そうなると、数千円で済むと思っていた修理が、数万円になることがあります。
整備工場が高い部品を売りたいわけではありません。
単体部品の設定がなければ、純正部品を使って確実に修理するにはASSY交換を選ぶしかない場合があります。
中古部品や社外部品を探せることもありますが、すべての車に適合する部品が見つかるとは限りません。
見つかったとしても、どの程度使われた部品なのか分からず、保証が難しい場合もあります。
お客様と整備工場でトラブルになりやすいのが、
「概算見積もり」
と
「確定見積もり」
の認識がそろっていないケースです。
整備工場は、
「おそらく10万円前後です。ただし分解後に追加部品が必要になる可能性があります」
という意味で説明した。
しかし、お客様は、
「10万円で必ず直る」
と受け取っていた。
この認識差が、後から大きな不信感になります。
整備工場側は、
・現時点ではどこまで確認できているのか
・この金額は確定なのか概算なのか
・分解後に追加となる可能性がある部品は何か
・追加料金はどの程度まで考えられるのか
・金額が変わる場合は作業を止めて連絡するのか
ここまで説明する必要があります。
「やってみないと分かりません」
だけでは、お客様は判断できません。
正確な金額を断言できなくても、
「ボルトが折れた場合は追加で1万円から2万円程度かかる可能性があります」
「内部の部品まで損傷していれば、最大15万円前後になるかもしれません」
という幅を伝えることはできます。
追加作業の前に了承を取るべき
分解後に別の異常が見つかった場合、整備工場はそこで一度作業を止めるべきです。
そしてお客様へ、
「分解したところ、最初には確認できなかった故障が見つかりました」
「このままでは元の見積もり内容だけで正常に直せません」
「追加でこの部品が必要になり、総額は15万円ほどになります」
と説明します。
可能であれば、壊れている部品や写真も見てもらいます。
そのうえで、
・追加修理をする
・最初に依頼した範囲だけ修理する
・今回は修理を中止する
・中古部品など別の方法を探す
・車の買い替えも含めて検討する
といった選択肢を提示します。
追加金額を説明せず、完成後にいきなり、
「5万円増えました」
という請求をするのはよくありません。
必要な修理だったとしても、お客様が支払う金額を整備工場だけで決めてよいわけではないからです。
一方、作業を途中で止めても、簡単に元へ戻せないケースがあります。
例えば、古いガスケットやシールは一度外したら再使用できません。
錆びたボルトを何とか外したあと、古いボルトをそのまま戻すこともできません。
分解した結果、再使用できないことが分かった部品を交換しなければ、車を動かせる状態へ戻せない場合があります。
このようなケースで、
「追加料金がかかるなら何もせず元へ戻してほしい」
と言われても、完全に入庫時の状態へ戻すことが難しいことがあります。
だからこそ、作業開始前の説明が重要になります。
古い車や錆の多い車では、
「分解後に追加部品が発生する可能性があります」
「途中で修理を中止しても、分解工賃や再組み付けに必要な部品代はかかります」
と伝えておく必要があります。
複数の整備工場から見積もりを取り、一番安い店を選ぶ人もいます。
価格を比較すること自体は悪くありません。
ただし、見積書に含まれている内容を確認する必要があります。
一方の店は、壊れている部品だけを見積もって10万円。
別の店は、同時交換が必要になりそうなパッキン、ボルト、周辺部品まで入れて15万円。
数字だけを見ると、10万円の店が安く見えます。
しかし、作業開始後に追加部品が発生して最終的に15万円になるなら、実際の支払額は変わりません。
むしろ、最初から発生しそうな費用を見積もりへ入れていた店の方が、説明が丁寧だった可能性もあります。
見積もりを比較するときは、総額だけではなく、
・どの部品を交換するのか
・工賃にどこまで含まれているのか
・追加料金が発生する条件
・作業後の保証
・中古部品や社外部品を使うのか
まで確認することが大切です。
修理中に金額が増えると連絡が来たら、すぐに了承する前に次のことを確認してください。
・追加で見つかった故障はどこか
・最初の点検で分からなかった理由
・追加部品を交換しないとどうなるか
・今すぐ必要なのか、後日でもよいのか
・追加後の総額はいくらか
・さらに金額が増える可能性があるか
・写真や取り外した部品を確認できるか
きちんとした整備工場なら、追加修理が必要になった理由を説明してくれるはずです。
逆に、
「とにかく必要だから」
「もう作業してしまったから」
という説明だけで高額な追加請求をされた場合は、詳しい内訳を確認した方がよいでしょう。
車の修理では、分解して初めて見つかる故障があります。
そのため、10万円だった見積もりが15万円になること自体は、必ずしも不自然ではありません。
特に、
・年式が古い
・走行距離が多い
・下回りの錆が進んでいる
・事故による損傷がある
・異音など原因が見えにくい
・部品がASSYでしか供給されない
このような車は、追加費用が発生しやすくなります。
しかし、
「分解しないと分からなかった」
という言葉だけで、すべてが許されるわけでもありません。
整備工場には、追加の可能性を事前に伝え、異常が見つかった段階で作業を止め、金額と選択肢を説明する責任があります。
お客様側も、最初の見積もりが概算なのか確定なのかを確認しておくことが大切です。
修理見積もりが後から増えたときに見るべきなのは、金額が変わったという結果だけではありません。
なぜ増えたのか。
いつ説明されたのか。
追加作業へ了承したのか。
交換が本当に必要なのか。
ここが明確なら、分解後の追加修理にも納得しやすくなります。
反対に、何の説明もないまま請求額だけが増えていたのなら、整備工場側の説明不足を疑うべきです。
車の修理には、実際に分解しなければ分からないことがあります。
だからこそ、整備技術だけではなく、作業前と作業途中の説明が重要なのです。
修理するか迷ったら、現在の車の価値も確認する
修理費が10万円から15万円へ増えた場合、そのまま修理する以外に、買い替えを検討する選択肢もあります。
特に、年式が古い車や走行距離が多い車では、今回の修理を終えても、別の部品が続けて交換時期を迎える可能性があります。
判断するときに確認したいのが、
・修理後にあと何年乗る予定か
・今回直す場所以外に不具合がないか
・次の車検でかかりそうな費用
・現在の車にどの程度の買取価格が付くか
という4点です。
修理工場へ依頼する前に現在の査定額を確認しておけば、
「15万円をかけて乗り続ける」
「修理せずに売却して買い替える」
という二つの選択肢を、金額で比較できます。
あなたの愛車を一番高く買い取ってくれるお店探し査定を受けたからといって、必ず売却する必要はありません。修理するか買い替えるかを判断するための材料として利用できます。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。