「免許更新のときに高齢者講習を受けたから、親の運転はもう大丈夫」。
そう思っているご家族は意外と多いのではないでしょうか。2022年の道路交通法改正で、一定の違反歴がある75歳以上のドライバーには運転技能検査が義務化されました。ところが、この検査の合格率はなんと93%。ほとんどの人がすんなり通ってしまう一方で、高齢ドライバーが起こす事故の発生率は、年齢層によっては最大4.5倍にもなるという調査結果が出ています。
合格率が高いのに事故率も高い。この一見矛盾した数字の裏には、「検査が測れているもの」と「実際の事故原因」のズレがあります。今回はベストカーWebで報じられた制度見直しのニュースをもとに、整備士の立場から「検査に通ること」と「毎日安全に運転できること」がなぜイコールにならないのかを考えてみます。
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運転技能検査は、コース内でS字やクランク、信号のある交差点などを走り、決められた基準内でミスなく通過できるかを見る試験です。警察庁が2022年の法改正で導入し、過去に一定の違反歴がある75歳以上のドライバーに義務付けられました。
この検査自体は決して「ザル」というわけではありません。しかし合格率93%という数字だけを見ると、「ほとんど誰でも通る検査」に見えてしまうのも事実です。実際、この数字と事故率の実態にギャップがあることから、警察庁は検査内容の見直しに動き出しています。
なぜ合格率が高いのに事故率は最大4.5倍なのか
ここで重要なのは、技能検査が「その日、その数分間でどれだけ運転できたか」を見る試験だという点です。コース内を慎重に走れば合格できてしまいますが、実際の運転は天候、時間帯、体調、疲労度など日々条件が変わります。
事故率の調査結果が示しているのは、検査日のコンディションと、普段の運転のコンディションが必ずしも一致しないということです。特に高齢ドライバーの場合、判断力や反射神経の衰えは「毎日同じペースで」進むわけではなく、体調によって大きく波が出やすいとされています。検査では問題なくても、調子の悪い日に大きなミスにつながってしまう。この「波」こそが、合格率と事故率のギャップを生んでいる要因の一つと考えられます。
技能検査はあくまで、ハンドル操作やブレーキ操作といった「技能」の有無を確認するものです。しかし実際の事故原因で多いのは、アクセルとブレーキの踏み間違い、信号や標識の見落とし、車両感覚のズレといった、とっさの判断ミスです。
これらは「運転の上手い下手」というより、その瞬間の注意力や集中力に左右される部分が大きく、数分間のコース走行だけでは見抜きにくいものです。だからこそ今回、検査内容そのものの見直しが検討されているわけです。
整備士として気づく、運転に影響する車の変化
僕たち整備士は運転技能そのものを判定する立場ではありませんが、車を預かる中で、運転者の身体状況が変わってきているサインに気づくことがあります。
例えばブレーキペダルの踏み方。片足だけ強く擦れた跡が付いていたり、踏み込みが浅くなっていたりすると、以前とは違う踏み方になっている可能性があります。シートポジションやミラーの角度が以前と大きく変わっていた場合も、座り方や姿勢の維持が難しくなってきているサインかもしれません。
これらは「事故を起こす」と断定できるものではありませんが、本人や家族が気づきにくい変化を、車を通して垣間見ることができるのも整備の現場ならではだと感じています。
ここまで見てきたように、技能検査に合格することは「その時点で基本的な運転操作ができる」ことの確認であって、「毎日安全に運転し続けられる」ことの保証ではありません。
だからこそ警察庁も、合格率と事故率のギャップを重く見て制度の見直しに動いているのだと思います。検査を厳しくするかどうかは今後の議論次第ですが、少なくとも「検査に通ったから安心」という受け止め方自体は、見直す必要がありそうです。
家族や本人が今日からできる確認ポイント
制度の改正を待つ前に、家族や本人ができることもあります。例えば、最近ヒヤリとする場面が増えていないか本人に聞いてみる、車のブレーキペダルやアクセルペダルの踏み跡に偏りがないか見てみる、駐車の仕方が以前より雑になっていないか観察する、といったことです。
車の点検に持ち込んだ際に、整備士から「ブレーキの踏み方が変わってきていますね」といった指摘を受けることがあれば、それは制度上の検査よりも早く気づける変化のサインかもしれません。車検や定期点検の機会を、運転の様子を振り返るきっかけとして活用するのも一つの方法だと思います。
高齢者の運転技能検査は「合格率93%」という数字だけ見ると心配ないように思えますが、事故率の調査結果が示す通り、検査合格と日々の安全運転は別物だと捉えておく必要があります。覚えておきたいのは次の点です。
検査に合格しても、それは「その日のコンディションで基本操作ができた」ことの確認にすぎないこと。判断力や注意力の衰えは体調によって波があり、検査では見抜きにくいこと。ブレーキペダルの踏み跡やシートポジションの変化など、車を通して気づけるサインもあること。そして、点検や車検のタイミングを「運転の様子を見直す機会」として活用することです。
制度の見直しがどう進むかはこれからですが、家族や本人が日頃から小さな変化に目を向けておくことが、何より確実な備えになるはずです。気になることがあれば、遠慮なく整備の際に相談していただければと思います。
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ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。