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日記・戯言

まだ走っているのに取扱説明書が消える。古い車の整備情報は誰が残すのか?

車の寿命は、昔に比べてずいぶん長くなりました。

10年、15年と乗り続ける車は珍しくありません。20年以上前の車を大切に維持している人もいます。

ところが、車そのものは元気に走っているのに、その車の情報を調べようとすると、意外な壁にぶつかることがあります。

メーカーの公式サイトから、古い取扱説明書が見つからないのです。

僕は今、MHO ENGINEERINGというサイトで、自動車の整備諸元データベースを構築しています。

エンジンオイルの交換量、ミッションオイルの規格、タイヤの指定空気圧、バッテリーの型番など、整備や維持管理に必要な情報を車種別にまとめる取り組みです。

その作業を進める中で、あらためて気づいたことがあります。

車を長く乗り続ける時代だからこそ、整備情報を残しておくことが重要なのではないか、ということです。

新型車が登場すると、古い説明書はどうなる?

自動車メーカーは、新型車の取扱説明書をWeb上で公開していることがあります。

昔は車内に積んである分厚い冊子を開かなければならなかったのに、今ではスマートフォンから確認できる。

これは本当に便利になりました。

ただし、すべてのメーカーが過去の全車種・全年式の説明書を、いつまでも同じ場所で公開しているわけではありません。

モデルチェンジに伴って掲載先が変わったり、旧型の説明書が見つけにくくなったり、アプリ内での閲覧に限られる場合もあります。

さらに注意したいのが、URLが残っていても、その先にある資料が以前と同じとは限らないということです。

例えば、ある車種の取扱説明書をブックマークしていたとします。

数年後、その車がフルモデルチェンジして、メーカーサイトのリンク先が新型車の説明書に切り替わったらどうでしょう。

古い車のオーナーが以前のリンクを開いても、そこに表示されるのは新しい車の情報かもしれません。

車名が同じでも、エンジンや変速機、油脂の指定が同じとは限りません。

これは整備情報を扱ううえで、見過ごせない問題です。

取扱説明書には重要な整備情報が載っている

取扱説明書というと、スイッチの使い方や警告灯の説明を読むもの、というイメージが強いかもしれません。

しかし、整備士の立場から見ると、非常に大切な情報源でもあります。

例えば、次のような項目です。

  • エンジンオイルの指定粘度と交換量
  • CVTフルードやMTオイルの指定銘柄
  • 冷却水の種類と容量
  • タイヤサイズと指定空気圧
  • ホイールナットの締付トルク
  • バッテリーの規格
  • スマートキーの電池型番と交換方法

車種によっては、メーターの設定方法やメンテナンス時期表示のリセット操作まで記載されています。

こうした情報は、整備するときに非常に役立ちます。

特に最近の車は、同じ車名でもエンジンや駆動方式、グレードによって指定内容が異なることがあります。

例えば、同じ車のMTとCVTでは、当然ながら変速機に使用する油脂が違います。

一見すると小さな違いですが、間違った油脂を使用すれば故障につながる可能性もあります。

だからこそ、メーカーの公式資料を確認することが大切なのです。

実際にコペンの説明書を調べてみた

今回、ダイハツのコペンの整備情報を調べていました。

ところが、確認したかった資料は公式アプリで閲覧する方式になっていて、そのままPDFとして取り出せない状況でした。

そこで、アプリに表示されているサービスデータをスクリーンショットで確認する方法を試しました。

すると、エンジンオイルの交換量や指定油脂、タイヤの空気圧、バッテリーの規格など、必要な情報を取得できました。

さらに、トヨタから販売されているコペン GR SPORTについては、取扱説明書のPDFを使って調査しました。

こちらでは、サービスデータだけでなく、別の章に記載されたスマートキーの電池やホイールナットの締付トルクも確認できました。

ここで気づいたのは、サービスデータのページだけを調べても、必要な整備情報をすべて取得できるとは限らないということです。

キー電池の交換方法はキーの章に、ホイールの締付トルクはタイヤ交換の章に、といった具合です。

取扱説明書を一冊通して確認することには、思っていた以上の価値があります。

整備士として25年間働いてきて思うこと

僕は整備士やサービスフロントとして、約25年間、自動車整備の仕事に携わってきました。

その間、さまざまな車に触れてきました。

新しい車もあれば、走行距離が20万kmを超えた車、すでに生産が終了して長い年月が経過した車もありました。

古い車の整備で困ることの一つが、正確な情報を探すことです。

部品があるのか、指定油脂は何なのか、調整基準はいくつなのか。

経験で判断できることもありますが、経験だけでは判断してはいけないこともあります。

特に締付トルクや油脂の規格、電子制御の初期化などは、適用条件を確認する必要があります。

昔の整備工場には、分厚い整備書が何冊も並んでいました。

ところが今は、情報の多くが電子化されています。

電子化によって検索や更新は便利になりました。

その一方で、情報の提供が終了すると、手元には何も残らないという問題も生まれています。

紙の整備書なら、古くなっても本棚から取り出せます。

しかし、Web上の資料は、提供元が変更すれば以前の内容にアクセスできなくなることがあります。

便利さと引き換えに、情報の継続性という新しい課題が出てきたように感じます。

MHO ENGINEERINGで整備データを残していきたい

こうした背景もあり、現在、MHO ENGINEERINGで整備諸元データベースの構築を進めています。

メーカーの公式取扱説明書や公式資料を確認し、整備に必要な数値を車種別・型式別に整理するものです。

単純に車名だけでデータをまとめるのではなく、年式やエンジン、MT・CVT、駆動方式などの違いも区別するようにしています。

また、出典については、資料名、資料の版、取得日、確認日などを残す方針です。

メーカーのURLが後から変更された場合でも、少なくとも、いつ、どの資料を確認して取得したデータなのかが分かるようにしておきたいからです。

もちろん、これでメーカーの整備書を完全に代替できるわけではありません。

正規の整備情報にしか掲載されていない詳細な手順もありますし、整備情報が後から改訂されることもあります。

それでも、オイル交換量やタイヤの空気圧など、日常的によく確認する整備諸元を探しやすくすることには意味があると考えています。

特に生産終了から長い年月が経過した車ほど、こうした情報を調べられる場所の価値が高くなるのではないでしょうか。

車が走り続ける限り、整備情報も必要になる

自動車メーカーにとって、新しい車を開発し、販売していくことは当然大切な仕事です。

一方で、ユーザーの手元には、10年前、20年前に販売された車が今も残っています。

その車をこれからも大切に乗り続けたいと思っている人がいます。

車は販売が終了しても、そこで役目を終えるわけではありません。

むしろ年数が経過するほど、維持管理には正しい知識と情報が必要になります。

古い車の整備情報を、いつでも簡単に確認できる環境。

それがもっと充実してほしいと思います。

MHO ENGINEERINGの整備DBも、まだまだ発展途上です。

これから対応車種と整備項目を少しずつ増やし、長く使ってもらえるデータベースにしていくつもりです。

車は古くなっても、必要な整備情報まで古くなって消えてしまっては困る。

今回、コペンの取扱説明書を調べながら、そんなことを考えました。