スズキが「スーパーエネチャージ」開発!ボルト1本まで軽くし、開発期間も半減へ

スズキが、これからの軽自動車や小型車につながる新技術を一気に発表しました。

2026年9月25日に発表された「10年先を見据えた技術戦略2026」では、新型ハイブリッドシステムの「スーパーエネチャージ」、シリーズハイブリッド、新開発の直噴ターボエンジンなどが公開されています。

さらに、安全性を高めながら車両を100kg軽量化する技術や、新型車の開発期間を半分にするという、かなり踏み込んだ目標も明らかになりました。

整備士として技術的な内容も気になります。

しかし、今回もっとも重要なのは、スズキが車の開発方法そのものを変えようとしていることだと思います。

新型ハイブリッド「スーパーエネチャージ」とは?

スーパーエネチャージは、現時点では開発中の名称です。

搭載車種や発売時期、価格、バッテリーの種類などは正式発表されていません。

スズキの資料では、軽自動車向けの新型ハイブリッドとして「48V P2」という構成が示されています。

P2ハイブリッドは、エンジンとトランスミッションの間にモーターを配置する方式です。

現在のスズキのマイルドハイブリッドは、モーター機能付き発電機のISGを使い、エンジンの再始動や加速を補助しています。

スーパーエネチャージでは、現在よりもモーターを積極的に走行へ使えるようになると考えられます。

スズキは、内燃機関車に対してCO2排出量を約15%減らしながら、軽自動車に求められる加速性能、使い勝手、価格を両立させる方針です。

高価で大きなフルハイブリッドをそのまま軽自動車へ積むのではなく、必要な性能に絞った電動化です。

いかにもスズキらしい考え方だと思います。

新開発の直噴ターボエンジンも投入へ

スズキは電気自動車やハイブリッドだけでなく、内燃機関の開発も継続します。

新たに開発するのが、次世代の直噴ターボ「DITCエンジン」です。

主にインドをはじめとする成長市場へ向け、高効率と力強い走りを両立させるエンジンとして開発します。

高EGRやリーン燃焼、高圧縮比化、高速燃焼、ミラーサイクル、低粘度オイル、熱マネジメントなどを組み合わせ、エンジンの損失を一つずつ削減します。

現在の熱効率40%領域をさらに広げ、その先では熱効率50%へ挑戦するとしています。

EVだけにすべてを賭けるのではなく、地域によってハイブリッド、内燃機関、CNG、バイオガスなどを使い分ける。

世界中で小型車を販売するスズキにとっては、このマルチパスウェイが現実的なのでしょう。

一方、整備士目線では直噴ターボの長期耐久性も気になります。

高圧燃料ポンプ、インジェクター、ターボ、吸気バルブへのカーボン付着など、自然吸気エンジンより確認すべき部品は増えます。

高効率化と同時に、スズキが得意としてきた維持費の安さや修理のしやすさも残してほしいところです。

5年前より車は50%高く、10%重くなった

鈴木俊宏社長は、現在の自動車を取り巻く問題について、非常に分かりやすい数字を示しています。

5年前と比較して、車の平均購入価格は約50%上昇し、平均車両重量も約10%増加したというのです。

原材料やエネルギー価格の上昇に加え、安全装備、環境規制、快適装備、電動化への対応によって、車は高く、重く、複雑になりました。

最近では、軽自動車でも200万円を超えることが珍しくありません。

衝突被害軽減ブレーキ、各種センサー、電動パーキングブレーキ、大型ディスプレイ、ハイブリッドシステムなど、昔の軽自動車にはなかった装備が大量に追加されています。

一つひとつには意味があります。

しかし、全部を積み上げた結果、軽自動車なのに価格も重量も軽くなくなってきました。

だからこそスズキは、「本当に必要な機能は何か」を見直し、小さく、少なく、軽く、短く、美しくする「小・少・軽・短・美」を改めて前面へ出しています。

ボルト1本で約1gを削る

今回の資料で、僕がスズキらしいと思ったのがボルトの話です。

スズキは、二輪車や船外機で使っていた技術を四輪車へ応用し、M8ボルトの頭を小さくすることで、ボルト1本当たり約1gを軽量化します。

たった1gです。

普通なら「そこまでやって何が変わるのか」と思います。

しかし、車1台には2,000本を超えるボルトが使われています。

ボルトだけですべてが軽くなるわけではありませんが、こうした1g単位の見直しを車両全体で積み重ねていきます。

高張力鋼板、部品配置、車体構造、パワートレイン、電装品まで見直し、2030年へ向けて100kgの軽量化にめどをつけ、将来的には最大120kgの軽量化も検討しています。

軽量化というと、単純に鉄板を薄くして強度を落とすイメージを持つ人もいるかもしれません。

今回の考え方は逆です。

衝突時のエネルギーをどのように逃がすかを車両全体で考え、必要な場所には1,470MPa級の高張力鋼板を使います。

安全性能を維持しながら、不要な重量だけを削る。

一発逆転の新素材ではなく、ボルト1本まで見直す地道な設計です。

こういう部分は、長年軽自動車を作り続けてきたスズキの強さだと思います。

e SKYは26kWhの電池で310kmを目指す

スズキ初の軽乗用EV「e SKY」にも、この考え方が表れています。

プロトタイプの数値では、容量26kWhのLFPバッテリーを搭載しながら、航続距離310km、車両重量1030kg、交流電力量消費率97Wh/kmを実現しています。

開発初期の航続距離は約230kmでした。

そこで開発チームは、「1アイテムで1km延ばす×100個」を合言葉にしたそうです。

タイヤの転がり抵抗、サスペンション、LEDの個数、電装品の消費電力、モーターとギヤ比などを一つずつ見直し、航続距離を310kmまで延ばしました。

巨大なバッテリーを追加したのではありません。

小さな改善を100個積み重ねた結果です。

EVというと、電池をたくさん積めば航続距離を延ばせると思われがちです。

しかし電池を増やせば、価格も重量も充電時間も増えます。

まず車そのものが使う電気を減らし、それでも足りない分だけ電池を積む。

この順番は正しいと思います。

新型車の開発期間を半分にする

スズキは2030年へ向け、新型車の開発期間を2020年度比で半分にするとしています。

同時に開発効率を30%、生産効率を50%向上させる目標です。

企画、設計、生産、品質、調達が順番に作業するのではなく、最初から同じ目標を見ながら並行して開発します。

デジタル開発や部品のモジュール化も進め、製品を市場へ出すまでの時間を短縮します。

この方針について、ネットでは賛否が出ています。

開発期間を半分にしたら、品質が落ちるのではないか。

十分にテストされていない車が出てくるのではないか。

その不安は分かります。

車は命を乗せる製品なので、安全性や耐久性の確認を省略してよいはずがありません。

しかし僕は、開発期間を短くする方向性そのものは正しいと思います。

時間をかければ、発売時には一世代前になる

現在のEVやソフトウェアの進化は非常に速くなっています。

バッテリー、モーター、半導体、充電性能、運転支援、車載OSは、数年で大きく変わります。

企画してから発売するまでに5年、6年とかかれば、開発開始時には最新だった技術が、市販時には一世代前になってしまいます。

特に中国メーカーは、開発から市場投入までの速度が速く、発売後もソフトウェア更新や年次改良を繰り返します。

日本メーカーが100点の完成品を目指して慎重に開発している間に、中国勢はまず80点の車を市場へ出し、ユーザーの反応を見ながら85点、90点へと改良していく。

この速度差は、簡単には埋まりません。

2022年に会社が設立されたソニー・ホンダモビリティのAFEELAも、長い開発期間を経ながら市販へ至らず、2026年3月に第1弾のAFEELA 1と第2弾モデルの開発・発売中止が発表されました。

公式には、ホンダの電動化戦略見直しとEV市場の変化によって、事業の前提が変わったことが理由とされています。

もちろん、開発が遅かったことだけが中止の原因ではありません。

しかし、発表から市販まで時間をかけている間に、市場環境やライバル車、ユーザーが求めるものが変わってしまう怖さを示した例ではあると思います。

「不完全でも出せ」の本当の意味

僕が思う「ある程度の形になったら出す」は、安全性が不完全な車を売れという意味ではありません。

ブレーキ、操舵、衝突安全性、駆動用バッテリーの安全性など、命に関わる部分は徹底して確認する必要があります。

しかし、便利機能やソフトウェア、商品性のすべてが100点になるまで発売を待つ必要はありません。

基礎となる安全と耐久性を確保したら、まず市場へ投入する。

そしてユーザーから得たデータを使い、ソフトウェア更新や年次改良、次期モデルで速やかに改善する。

最初から完璧を目指して発売時期を逃すより、実際に走らせながら育てていく考え方が必要です。

ただし、日本メーカーが中国勢の速度だけを表面的に真似して、確認工程を単純に削るのは危険です。

スズキが目指しているのは、試験を減らすことではなく、デジタル開発、同時進行、共通部品などによって、同じ品質確認を短時間で終わらせる仕組みづくりでしょう。

ここを間違えてはいけません。

スズキの強みは「速さ」と「地道さ」を両立できるか

ボルト1本から1gを削り、車両全体で100kgを軽くする。

その一方で、新型車の開発期間を半分にする。

一見すると、じっくり作り込む考え方と、素早く発売する考え方は矛盾しているように見えます。

しかし、小さな改善を日常的に積み上げ、それをデジタル技術や共通設計で素早く次の車へ反映できれば、両立は可能です。

スーパーエネチャージ、直噴ターボ、e SKY、100kgの軽量化。

個々の技術も興味深いですが、今回もっとも期待したいのは、それらを商品として市場へ出すまでの速さです。

どれほど優れた技術でも、発表資料の中にあるだけではユーザーの役には立ちません。

ある程度の形になったら、まず出す。

出した後に使われ方を見て、さらに改良する。

安全と耐久性だけは絶対に妥協せず、それ以外は市場の速度に合わせて進化させる。

中国勢に追いつくために、今の日本メーカーへ必要なのは、まさにその姿勢だと思います。

開発期間を半分にするというスズキの判断は、簡単ではありません。

しかし、変化の速い時代に小型車メーカーとして生き残るためには、正しい方向だと僕は思います。

整備士25年目にして、本を出しました!今までの整備についていろいろ書いているのでぜひ読んでみてください。

整備士25年で見てきた 車を壊す人・長持ちさせる人

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