いすゞ自動車が、電気バス「エルガEV」のリコールを国土交通省へ届け出ました。

対象となるのは、2024年11月26日から2026年7月20日までに製造された車両で、これまで国内で販売されたエルガEVが対象になる大規模な内容です。
今回のリコールで注目したいのは、不具合の場所です。
EVの火災と聞くと、
「またバッテリーか」
と思う人も多いかもしれません。
しかし今回、問題になったのは駆動用バッテリーそのものではありません。
原因とされているのは、電力変換装置である「インバーター」です。
目次
原因はインバーター内部のはんだ付け
リコール届出によると、インバーター内部の基板で、はんだ付け工程が適切でないものがあったとされています。

この部分は、走行中に温度が上がったり下がったりします。
つまり、
加熱
↓
膨張
↓
冷却
↓
収縮
という状態が繰り返されます。
正常にはんだ付けされていれば問題ありませんが、不十分な部分があると、その繰り返しによってはんだに亀裂が入ることがあります。
すると端子部分の接触が不安定になり、制御信号が乱れます。
最終的にはインバーター内部で短絡、つまりショートが発生する可能性があります。
その結果、
EVシステム異常警告灯が点灯
↓
走行不能
↓
制御回路が損傷
↓
ハーネスなどへ連続通電
↓
発熱
↓
最悪の場合は火災
という流れにつながるおそれがあります。
かなり重い不具合です。
対策はインバーターそのものを交換
今回の対策は、点検だけではありません。
対象車両すべてについて、インバーターを良品へ交換します。
さらに故障コードを確認し、関連する異常がないか点検。
一部の車両については、MCU、つまりモーターコントロールユニットも新品へ交換します。
ここまでやるということは、それだけ安全側へ振った対応だと考えられます。
7月には大阪でエルガEVが炎上していた
このエルガEVをめぐっては、2026年7月31日に大阪市内で火災事故が発生しています。
EVバスが大きく燃えたため、当時は当然のように、
「バッテリー火災ではないか」
という見方も出ました。
EVに大容量リチウムイオンバッテリーが搭載されている以上、そう考えるのも無理はありません。
しかし、その後の調査では少し違う状況が見えてきました。
事故車両を分解したところ、バッテリーの変形は比較的軽微だったとされており、バッテリーそのものが直接の出火原因ではない可能性が高まっています。
むしろ、今回リコールとなったインバーター内部の短絡から車両側へ高電圧が流れ、それによって周辺回路やハーネスなどが発熱、そこから火災が広がった可能性があるとされています。
つまり、
「EVだからバッテリーが燃えた」
という単純な話ではなかったわけです。
「EV火災=バッテリー」と決めつけるのは危険
ここはかなり重要だと思います。

EVで火災が発生すると、SNSなどではすぐに、
「EVは燃える」
「バッテリーが危険だ」
という話になりがちです。
もちろん、リチウムイオンバッテリーが損傷した場合の危険性は無視できません。
一度熱暴走が始まれば消火が難しくなるケースもあります。
ただし、
EVの車両火災=必ずバッテリーが原因
ではありません。
今回のように、原因がインバーターである場合もあります。
充電系統かもしれない。
配線かもしれない。
制御基板かもしれない。
補機類かもしれない。
これはエンジン車でも同じです。
エンジン車だって普通に燃える
車両火災はEVだけに起きるものではありません。
エンジン車でも、
燃料漏れ
オイル漏れ
電気配線のショート
オルタネーター
スターター
補機類
後付け電装品
マフラー周辺への可燃物付着
など、さまざまな原因で火災は発生します。
整備をしていると、
「車には燃える条件が意外と多い」
ということを実感します。
燃料もあります。
高温になる排気系もあります。
大電流が流れる電気配線もあります。
ですから、火災という結果だけを見て、
「EVだから」
あるいは、
「エンジン車だから」
と決めつけてしまうと、本当の原因が見えなくなります。
EVは「高電圧の電気自動車」として見る必要がある
今回の不具合は、EVならではの注意点も示しています。
EVでは大きな電力を扱います。
バッテリーから供給された直流電力を、モーターを動かすために変換する中心的な部品のひとつがインバーターです。
ここで異常が起きれば、単にモーターが止まるだけでは済まない可能性があります。
高電圧回路で短絡が起きれば、周囲の制御回路や配線へも影響する。
今回のリコールは、まさにそこが問題になっています。
EVを見るときは、
「バッテリーだけを見ればいい」
わけではありません。
インバーター、モーター、DC-DCコンバーター、充電器、高電圧配線、冷却系統。
これら全部をひとつのシステムとして見る必要があります。
今回の事故から感じること
今回のエルガEV火災について、
「ほら、EVは危険だ」
だけで終わらせてしまうのは少し違うと思います。
実際には、
どの部品が壊れたのか。
なぜ壊れたのか。
どのような経路で火災へ発展したのか。
そこまで分けて考える必要があります。
今回はバッテリーそのものではなく、インバーターの基板のはんだ付け不良が発端とされています。
そして対策として、対象車両はインバーターを良品へ交換。
一部ではMCUも交換されます。
EVが増えれば、これまでエンジン車ではあまり馴染みのなかった部品の故障も増えてきます。
インバーター。
高電圧ハーネス。
駆動用モーター。
DC-DCコンバーター。
これからの整備士は、こうした部品についても詳しくならなければいけません。
そしてユーザー側も、
「EVが燃えた=バッテリー」
というイメージだけではなく、
「車両火災にはいろいろな原因がある」
という視点でニュースを見る必要があると思います。
今回のエルガEVの件は、その分かりやすい一例ではないでしょうか。
新著がでました。20万キロまでのメンテナンスについて書いてみた本です。
その考え方を1冊にまとめました。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。