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電装系

なぜ最近の車はヒューズを交換するだけでも難しいのか?電子制御化で変わった車の電気系統

車の電装品が動かなくなったとき、昔から真っ先に確認するものの一つがヒューズです。

パワーウィンドウが動かない。シガーソケットから電源が取れない。ワイパーが動かなくなった。

こうしたトラブルでは、まずヒューズが切れていないかを確認するのが整備の基本でした。

もちろん、現在でもヒューズの点検は重要です。

しかし、最近の車では、単純に「ヒューズを見つけて交換すれば終わり」とはいかないケースも増えてきました。

ヒューズそのものが難しくなったというよりも、ヒューズが守っている電気系統が、昔とは比較にならないほど複雑になっているのです。

今回は、現代の自動車のヒューズ事情について、整備士の視点から考えてみたいと思います。

昔の車は電気の流れが比較的わかりやすかった

以前の車では、電装品とヒューズの関係が比較的単純なものも多くありました。

例えばホーンが鳴らない場合、ホーンのヒューズを確認する。ワイパーが動かない場合、ワイパーのヒューズを確認する。

もちろん昔の車にもリレーや複雑な回路はありましたが、電装品から電源回路を追いかけやすい構造が多かったのです。

ヒューズが切れていれば、同じ容量のものに交換して、正常に作動するか確認する。

再び切れるようなら、配線や電装品のショート、過負荷などを疑って調べていく。

基本的には、このような診断の流れでした。

ところが最近の車は事情が違います。

1. 一つの電装品を複数のコンピューターが制御している

現代の自動車には、多数のECU(電子制御ユニット)が搭載されています。

エンジンやトランスミッションだけではありません。

ドアロック、ライト、エアコン、ブレーキ、ステアリング、パワーウィンドウなど、さまざまな機能が電子制御されています。

例えばライトを点灯させる場合でも、スイッチから直接電球へ電気を流すとは限りません。

スイッチの操作をコンピューターが読み取り、ほかの制御ユニットと通信しながら、ライトの点灯を指示する仕組みもあります。

このような車では、ライトが点灯しないからといって、ライトのヒューズだけを確認すればよいとは限りません。

スイッチの入力、制御ユニットの電源、通信状態、出力回路など、確認する箇所が増えるからです。

しかも、一つのECUが複数の機能を担当していることもあります。

ヒューズが切れていたとしても、それがどの機能に影響しているのか、回路図を見なければ判断しにくいのです。

2. ヒューズボックスの中身が非常に複雑になった

最近の車の取扱説明書を見ると、ヒューズの一覧に驚くほど多くの項目が並んでいます。

例えばホンダの現行N-BOXの取扱説明書には、次のようなヒューズが記載されています。

  • ABS/VSAモーター
  • EPS
  • DC/DC
  • バッテリーセンサー
  • ドライブバイワイヤ
  • ライトコントロールモジュール
  • リレーモジュール

昔から存在する機能もありますが、電子制御や電源管理に関係するヒューズが目立ちます。

しかも、ヒューズボックスはエンジンルームだけにあるとは限りません。室内にも設置され、車種によっては複数の場所に分かれています。

一見すると、同じような名前のヒューズが複数存在することもあります。

ここで重要なのは、ヒューズの名称だけで役割を決めつけないことです。

例えば「IG」という表記があっても、そのヒューズがどこへ電源を供給しているのかは、車種ごとの回路図で確認する必要があります。

最近の車ほど、ヒューズボックスのフタに書かれた略号だけでは診断しきれなくなってきています。

3. ヒューズが切れていなくても電気が流れないことがある

ヒューズを調べるとき、最初に見るのは内部の金属部分が切れていないかという点です。

しかし、ヒューズが正常だからといって、その電装品に必ず電気が供給されているとは限りません。

電子制御された回路では、ECUが条件に応じて電源供給を制御している場合があります。

例えば、車両の状態によって作動を禁止したり、異常を検出して出力を停止させたりする仕組みです。

この場合、ヒューズが切れていなくても電装品が動かないことがあります。

逆に、ヒューズを交換しただけでは、故障したECUや電装品の異常が解消されないこともあります。

こうなると必要なのは、ヒューズの目視点検だけではありません。

電源電圧やアースの確認、回路図による配線の追跡、診断機を使った故障コードの確認などが重要になります。

4. HVやEVでは、電源系統そのものが違う

さらに複雑なのが、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車です。

これらの車には、従来の12V電源に加えて、高電圧の駆動用システムが存在します。

例えば高電圧バッテリーを搭載した車では、DC/DCコンバーターを使って12V系統へ電力を供給する構造があります。

そのため、12Vバッテリーの状態だけでなく、DC/DCコンバーターや高電圧システム側の状態が影響する場合もあります。

また、高電圧側には通常の12Vヒューズとは異なる保護機構も使われています。

ここで特に注意したいのは、オレンジ色の高電圧配線や高電圧部品に、一般的なヒューズ交換の感覚で触れてはいけないということです。

高電圧系統の整備には専用の知識、資格・教育、保護具、メーカー指定の安全手順が必要です。

低電圧側のヒューズ点検と、高電圧側の整備は明確に区別しなければなりません。

5. 今後は「交換するヒューズ」が減っていく可能性もある

そして、さらに興味深い変化があります。

自動車の電源分配システムでは、従来の機械式リレーや溶断式ヒューズに代わり、半導体を利用した保護・電源制御技術の開発が進んでいます。

例えば、異常な電流を検出すると電子回路が電源供給を停止する仕組みです。

従来のヒューズのように、一度切れたら部品を交換する方式とは異なり、条件が整えば電子的に復帰できる設計も考えられています。

もちろん、すべての車がすぐにこうした方式へ移行するわけではありません。

従来型のヒューズも現在広く使われています。

しかし、こうした技術が普及していくと、将来的には「ヒューズが切れているかどうか」という診断だけでは対応できないケースが、さらに増えるかもしれません。

6. 一番怖いのは、ヒューズが切れた原因を見逃すこと

ここは昔の車でも今の車でも変わりません。

ヒューズは、過電流から配線や電気回路を保護するための部品です。

つまり、ヒューズが切れたということは、その回路に何らかの異常が発生した可能性があります。

もちろん、一時的なトラブルで切れる場合もあります。

しかし、何度も同じヒューズが切れるのであれば、原因を調べなければなりません。

配線のショート、内部故障したモーター、浸水したコネクター、後付け電装品の不具合など、原因はさまざまです。

そして、絶対にやってはいけないのが、規定より大きい容量のヒューズを取り付けること。

例えば10Aのヒューズが何度も切れるからといって、15Aや20Aに変更するのは危険です。

本来保護すべき配線や電装品に過大な電流が流れ、損傷や発熱、場合によっては火災につながるおそれがあります。

ヒューズを交換するときは、必ずメーカーが指定する容量と種類を守ることが基本です。

また、メインヒューズや複合ヒューズなど、メーカーが販売店での交換を指定しているものもあります。

自分で交換してよい範囲なのかどうかも、取扱説明書で確認する必要があります。

難しくなったのはヒューズではなく車の仕組み

昔も今も、ヒューズの基本的な役割は変わりません。

異常な電流から電気回路を守ることです。

しかし、現代の車は多数のECUが連携し、電源管理も高度化しています。

そのため、電装品が動かなくなったとき、単純に一つのヒューズを見れば原因がわかるとは限らなくなりました。

ヒューズが正常でも動かないことがある。ヒューズが切れていても、その原因が別の場所にあることがある。

そしてEVやFCEVでは、従来の12V電装系とは別に高電圧系統も存在します。

整備士に求められるのは、部品を交換する技術だけではなく、電気がどこから来て、どの条件で、どの回路へ流れるのかを理解することだと思います。

最近の車は、電装品が増えて便利になりました。

その一方で、故障診断にはこれまで以上の知識と整備情報が必要になっています。

小さなヒューズ一つを取っても、自動車整備がどれほど変化してきたのかが見えてくるのです。