昔、エンジンをかけた直後だけガラガラ音がする日産セドリックがありました。

エンジン始動直後に金属的な異音が出るのですが、しばらくすると音が消えてしまう。
こうした症状は、整備士にとってなかなか厄介なものです。
ずっと音が出ていれば、場所を探すこともできます。
ところが、エンジンをかけて数秒間だけ鳴り、その後は静かになる。
しかも、一度エンジンを始動してしまうと、すぐに再現するとは限りません。
原因を追いかけたくても、異音が出ている時間が短すぎるのです。
エンジンの異音は発生するタイミングが重要
車の異音を診断するとき、僕は音の種類だけでなく、いつ音が出るのかを重要視しています。

エンジンが回っている間ずっと音がするのか。
アクセルを踏んだときだけなのか。
冷えているときだけなのか。
それとも始動直後の数秒間だけなのか。
この違いによって、疑う場所が変わってきます。
例えばオルタネーターやウォーターポンプなど、エンジンに付いている補機類のベアリングが傷んでいる場合。
ベアリングの異音なら、回転している間は継続的に鳴ることが多いものです。
反対に、始動直後だけ鳴って消えるのであれば、ベルトの滑りやエンジン内部の油圧に関係した異音を優先して疑います。
もちろん、ベアリングでも冷間時だけ音が出ることはあるため、断定はできません。
厄介なのがタイミングチェーンとラッシュアジャスター
エンジン内部で油圧が関係する部品といえば、タイミングチェーンのテンショナーがあります。

タイミングチェーンは、エンジンのクランクシャフトとカムシャフトの動きを同期させる大切な部品です。
このチェーンを適切な張り具合に保つため、油圧を利用するテンショナーが使われているエンジンがあります。
エンジンを長時間停止していると、油圧が抜けることがあります。
次にエンジンをかけたとき、油圧が立ち上がるまでの間にチェーンが振動して、ガラガラ音を出すことがあるのです。
もう一つがラッシュアジャスターです。
こちらはバルブ機構の隙間を油圧で自動調整する部品です。
内部の油圧が十分でないと、カチャカチャ、ガタガタと打音が出る場合があります。
問題なのは、どちらも油圧が正常になると音が消える可能性があること。
音を聞くだけで、チェーンなのかラッシュアジャスターなのかを判断するのは簡単ではありません。
セドリックにワコーズの添加剤を入れてみた
昔経験したセドリックも、エンジンオイルの油圧が立ち上がるまで異音がしていました。

エンジン内部で油圧に関係する部分から音が発生していると考えられましたが、原因箇所の切り分けは難しい状態でした。
そこで、ワコーズのエンジンオイル添加剤を試してみたのです。
そして翌朝。
再びエンジンを始動して、異音が発生するかを確認しました。
すると、あれだけ鳴っていた始動直後のガラガラ音が出なかったのです。
これは僕自身、かなり印象に残っている経験でした。
添加剤によって潤滑状態などが変わることで、異音が収まるケースが実際にあるのだと感じました。
もちろん、添加剤を入れたことと異音が消えたことの因果関係を、厳密に証明できたわけではありません。
それでも、翌朝の冷間始動という同じような条件で音が再現しなくなったことは、整備士として興味深い出来事でした。
添加剤で音が消えたら修理完了なのか?
ここは間違えてはいけないところです。

異音が収まったからといって、エンジン内部の摩耗や損傷が元に戻ったわけではありません。
タイミングチェーンが伸びている場合や、テンショナーが機械的に壊れている場合などは、添加剤では根本的な修理になりません。
ラッシュアジャスター自体に問題があれば、部品交換が必要になるケースもあります。
今回の経験から僕が学んだのは、油圧や潤滑状態に関係する音には、エンジンオイルや添加剤によって変化するものがあるということです。
ただし、添加剤は万能な修理剤ではありません。
特に、油圧警告灯が点灯していたり、ガラガラ音がいつまでも続いたりする場合は、重大な故障につながるおそれがあります。
そんなときは運転を続けず、整備工場で点検した方がいいでしょう。
朝だけ異音がする車は、朝に確認するしかない
このような異音の診断で難しいのは再現性です。

お客様から「朝だけ音がする」と相談されても、整備工場に持ち込まれた時点ではエンジンが温まっていることがあります。
その状態で何度エンジンをかけ直しても、異音が出ない。
整備士にとっては、音を聞くことさえできない場合があります。
だからこそ、冷間時の状態を確認することが大切です。
車を一晩預かって、翌朝エンジンを始動してみる。
あるいは、お客様にスマートフォンで異音を録音してもらう。
そうした方法が原因を探る手掛かりになります。
音が消えるまでの時間や、気温による違いも参考になります。
エンジンオイルの管理も大切
始動直後の異音が気になる場合、エンジンオイルの状態も確認したいところです。

オイルが不足していないか。
交換時期を大幅に超えていないか。
その車に指定された規格や粘度のオイルが使われているか。
こうした基本的な部分が重要です。
添加剤を試したい場合も、まずは車に適合しているか確認してください。
異音が消えた理由を考える
整備の仕事をしていると、教科書どおりにはいかない故障に出会うことがあります。
始動直後だけガラガラ音がするセドリックも、そんな一台でした。
タイミングチェーンなのか、ラッシュアジャスターなのか。
正確な切り分けは難しかったものの、ワコーズの添加剤を使った翌朝には音が出なくなりました。
その経験から、油圧や潤滑状態とエンジン異音の関係について、改めて考えるようになりました。
ただし、音が消えたことだけで故障が直ったと決めつけないことも大切です。
異音は車が発しているサインです。
どんな音が、いつ鳴って、どのタイミングで消えるのか。
そこを丁寧に観察することが、原因を探る第一歩だと思います。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。

