なぜ軽自動車から4気筒エンジンが消えたのか? スバルEN07とコペンJB-DETが残したもの

エンジン

今の軽自動車に搭載されているガソリンエンジンは、基本的に3気筒です。

N-BOX、タント、スペーシア、ワゴンRなど、メーカーが違ってもエンジンは直列3気筒が主流になっています。

しかし、一昔前の軽自動車には4気筒エンジンを搭載したモデルが存在しました。

代表的なのは、スバルのEN07型エンジン。そして初代ダイハツ・コペンに搭載されていたJB-DET型エンジンです。

僕自身、整備士としてEN07には何度も触れてきました。今振り返ると、660ccの軽自動車に4つのシリンダーを用意するというのは、なかなか贅沢な設計だったと思います。

では、なぜ軽自動車から4気筒エンジンが消えてしまったのでしょうか?

スバルがこだわり続けた4気筒エンジンEN07

スバルのEN07型エンジンは、排気量658ccの直列4気筒エンジンです。

レックス、ヴィヴィオ、プレオ、R1、R2、ステラ、サンバーなど、スバルが自社開発・生産していた数多くの軽自動車に搭載されました。

EN07には自然吸気仕様だけでなく、スーパーチャージャー仕様も存在しました。

ヴィヴィオRX-Rなどに搭載されたDOHCスーパーチャージャー仕様は、軽自動車の高性能エンジンとして今でも印象に残っています。

個人的に興味深いのは、スバルが軽自動車の自社生産を終了するまで、4気筒を採用し続けたことです。

スバルは2012年2月29日、サンバーの生産終了をもって軽自動車の自社生産から撤退しました。

その後の軽自動車はダイハツからのOEM供給へと切り替わっています。

つまり、スバルの自社製軽自動車とともに、EN07の歴史も幕を閉じたわけです。

初代コペンにも4気筒ターボが搭載されていた

もう一つ忘れてはいけないのが、初代ダイハツ・コペンです。

初代コペンに搭載されたJB-DET型エンジンは、659ccの直列4気筒DOHCターボ。

最高出力64馬力、最大トルク110Nmを発生するエンジンでした。

現在の軽自動車と同じ660ccという排気量でありながら、4つのシリンダー、DOHC、16バルブ、ターボチャージャーという構成です。

初代コペンは2012年に生産を終了し、2014年に登場した2代目では3気筒のKF型エンジンに変更されました。

軽自動車に4気筒を搭載する時代は、ここで事実上の終わりを迎えたのです。

なぜ4気筒エンジンは消えてしまったのか?

理由はいくつかありますが、僕はコストの問題が非常に大きかったと考えています。

1.部品点数がどうしても増えてしまう

同じ排気量660ccでも、3気筒と4気筒ではエンジン内部の構造が違います。

4気筒ではピストン、コンロッド、ピストンリング、バルブなどが1気筒分多く必要になります。

DOHCの4バルブエンジン同士で比較すると、3気筒なら12バルブ、4気筒なら16バルブです。

バルブだけでも4本増えることになります。

もちろん、それだけではありません。

シリンダーヘッドやクランクシャフトなどの設計にも違いがあり、製造工程や組み立て工数にも影響します。

軽自動車という価格競争の厳しいカテゴリーでは、この差が決して小さくありません。

1台あたりの製造原価が少し増えるだけでも、何万台、何十万台と生産すれば大きな金額になります。

2.摩擦損失と燃費の問題

4気筒は部品が増える分、摩擦が発生する箇所も多くなる傾向があります。

ピストンリングとシリンダー壁面の摩擦、クランクシャフトの軸受、動弁機構などです。

もちろん、エンジンの設計によって損失は変わるため、必ず4気筒の方が燃費が悪いというわけではありません。

しかし、同じ排気量で燃費を追求するのであれば、摩擦損失を抑えやすい3気筒には利点があります。

燃費性能が重要視されるようになったことも、4気筒が姿を消していった理由の一つでしょう。

3.660ccでは1気筒あたりの排気量が小さくなる

660ccを3気筒と4気筒に分けると、1気筒あたりの排気量は次のようになります。

  • 3気筒:約220cc
  • 4気筒:約165cc

4気筒では、1つのシリンダーがかなり小さくなります。

小排気量の4気筒には高回転までスムーズに回しやすいという魅力がありますが、低回転域のトルクや燃焼効率を重視する場合には、3気筒の方が設計上有利になることがあります。

最近の軽自動車は車体が大きく、重量も増えています。

街乗りで扱いやすい低回転トルクと燃費性能を両立させるには、3気筒が合理的な選択になったのでしょう。

それでも4気筒には独特の魅力があった

では、4気筒エンジンが3気筒より劣っていたのかというと、決してそうではありません。

直列4気筒は、直列3気筒と比較して回転時のトルク変動が小さく、滑らかな回転フィールを得やすい構造です。

特に高回転まで回したときのフィーリングには、4気筒ならではの魅力がありました。

ただし、直列4気筒にも二次振動があり、気筒数が多ければ振動がすべてなくなるというわけではありません。

僕がEN07を振り返って感じるのは、スバルが単に安く軽自動車を作るのではなく、軽自動車にも独自の走行品質を追求していたということです。

4気筒エンジンに加えて、独立懸架式サスペンションやスーパーチャージャーなど、当時のスバル製軽自動車には独特のこだわりがありました。

そうした特徴は、今でもスバル製サンバーやヴィヴィオなどが愛好家から支持されている理由の一つだと思います。

もし今、4気筒の軽自動車を作ったら?

技術的には、今でも660ccの4気筒エンジンを作ることは可能でしょう。

しかし、新たにエンジンを開発する費用や、製造コスト、燃費規制への対応などを考えると、メーカーにとって採算を合わせるのは難しいはずです。

現在の3気筒エンジンは、可変バルブタイミングや燃焼制御などの進化によって、性能や効率が大きく向上しています。

単純に4気筒へ戻したからといって、より優れた軽自動車になるとは限りません。

それでも、軽自動車に4気筒エンジンを搭載するという、かつてのメーカーの挑戦には魅力を感じます。

4気筒が消えたのは性能が悪かったからではない

軽自動車から4気筒エンジンが姿を消したのは、主に製造コスト、燃費、効率、そしてメーカーの開発方針の変化によるものだと考えられます。

3気筒が悪くて4気筒が良い、あるいはその逆という単純な話ではありません。

実用性を重視すれば3気筒が合理的でも、4気筒にしかない回転フィールやエンジンの個性があるのも事実です。

僕は整備士としてEN07に何度も触れてきましたが、今になってあのエンジンの存在が少し特別に思えてきます。

軽自動車にまで4気筒を採用していた時代。

効率だけでは語れない、メーカーの技術的なこだわりが詰まった時代だったのかもしれません。

スバル サンバー TT2 故障・整備バイブル: 整備士25年の実例でわかる 定番故障・故障診断・修理・予防整備

そんなサンバーの本を書いたこともあるので、よかったら読んでみてください。

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