いろいろありましたが、無事にエンジンが始動できたのでここで一旦記事にします。

LA610SのタントがJAFによってレッカー搬入されてきました。
どういう症状かというと、エンジンがかからないというもの。JAFの隊員さん曰くちょっと厄介な案件だと思うと。
入庫した時点で、うちのボスがざっと診断。どうやらそう簡単には復旧できそうにない状況であると。
僕もお客さんと連絡を取る必要があるために、症状を確認しました。
入庫時の症状として
・エンジンがかからない(IG ONにならない)
プッシュスタート式のキーフリーです。ブレーキペダルを踏んで、プッシュスタートボタンが緑色になったら押すと通常ならセルモーターが回って、エンジンがかかる。
しかしこのタントはプッシュスタートを押すと、プッシュスタートボタンがオレンジ色の点滅を初めて、その後に緑色の高速点滅に変わる。
そしてそのまま電源が落ちるという症状です。ちなみに、キーフリーシステムでドアロックやアンロックはちゃんと効きます。
キーと車両はちゃんと紐づいている。そしてバッテリー電圧も特に問題はなし。念のためにキーの電池を新品に交換しましたが、症状変わらず。

プッシュスタートスイッチがダメなんじゃないかと、ボスが手持ちのものと付け替えてみても症状変わらず。
ブレーキランプはちゃんと点灯しているので、ブレーキランプスイッチではないと。

ここで、整備陣にバトンタッチしました。現在の僕自身は現場で整備をする人間ではなくて、事務処理をメインにしているので。
先輩整備士が配線図やフローチャートを確認して、電源を追っていくと浮上してきたのがボディ統合ユニット。

グローブBOXを外すと見えてくる。

このヒューズブロックの中にコンピューターが入っています。ボディ統合ユニットと呼ばれるもので、これが割と壊れやすい。


ボディ統合ユニット。これがなかなかの金額で、5万円くらいするのです。
この先にもう少し何かが潜んでいそうなので、交換工賃プラスの予算を入れて、10万円弱修理代がかかるだろうことをお客さんに伝えて了解を得ました。
そして先輩整備士が統合ユニットを注文して交換。
症状はどうなったか?
この時点で1週間ほど経過していて、お客さんに進捗を伝えないといけないのですが、担当している先輩整備士に状況を聞こうと思ったら、用事で帰ってしまった。
週末に差し掛かり、月曜日には代車を回収しないと次のお客さんに迷惑がかかってしまう。
やむを得ず、休日に出勤して僕が原因を追求することにしました。
お客さんとやりとりしているのは僕なので、伸びている納期をこれ以上伸ばすわけにはいかない。
ここまでで整理すると
・タントはエンジンがかからない(IG ONにならない為、診断機もつながらない状態)
・エンジンをかけようとブレーキペダルを踏んでプッシュスタートが緑色になったあとに、押すとエンジンがかからない。そのあとオレンジの点滅になり、次第に緑色の高速点滅になる。そして電源が自動でOFFになる
・バッテリー電圧は良好(念のためバッテリカを接続して試しても変わらず)
・プッシュスタートスイッチもボスが入れ替えたけど、症状変わらず
・キーの電池を新品にしても症状変わらず。
・JAFがレッカーしてきた場所に止めっぱなし(ハンドルロックがかかっている為、動かすことが困難)
・代車は明後日回収しないといけない
・ボディー統合ユニットがダメだと判断して、交換してもエンジンかからず




ボディ統合ユニットを交換したタントの現状を把握するために、車両をまずは確認しました。
すると、今まで効いていたキーレスでのロックアンロックが効かなくなっていた。
そして、ブレーキペダルを踏んでもプッシュスタートは緑色に点灯しない・・・。もしやこれは・・・。
この時点で、頼りになるイケてるダイハツのK氏に連絡。K氏は見た目もカッコよく、対応もめっちゃくちゃ優しい、最強のサービスフロントです。
他のディーラーの見習ってほしいくらい、優しい対応なので僕はK氏を非常に頼りにしています。
で、ここまでの症状を話すと、プッシュスタートの点滅についていろいろ教えてくれました。診断機が繋がらないので、データモニタも読めないし。
プッシュスタートの緑色の高速点滅はバッテリー残量がかなり弱い時に起きるので、交換を進めるということ。
プッシュスタートのオレンジ点滅は、ステアリングロックの解除に失敗した時にくるアンサーだと。
これまでの経緯を伝えると、ボディ統合ユニットは新品に交換したら、この年式のタントはイモビライザの設定をしないと使えないらしいということ。
純正診断機なら、IG ONにならなくても、イモビの登録ができるからキャリアカーで運んでくれれば登録してみるよ!というものでした。
ただ、ディスカッションをしていると、ちょっと引っ掛かることがあったので、それを試してダメならダイハツへ持って行くと伝えて作業開始。

もはや綺麗な整備で結果に繋げる時間はない。
どうするかっていうと、代車にステラがあるんです。同年式の。そのステラのボディ統合ユニットを外して試したらどうなるかをまずは検証しました。
タントから新品のボディ統合ユニットを外して、代車のステラにつけました。
すると、リアクションはタントと同じ。やはりキーフリーなど一切の動作が効かない。ボディ統合ユニットは新品にしたらイモビを紐付けないといけないということは納得。
そのあと、壊れたタントのボディ統合ユニットを代車のステラに付け替えました。すると、キーレスはやはり使えない。ただプッシュスタートはブレーキを踏んだら緑色に点灯するので、エンジン始動をしてみたら始動しない。そのあとやっぱりオレンジ点滅に変わります。
このことから2つのことがわかりました。
・ボディ統合ユニットは新品をつけたらイモビを登録しないといけない。(年式によってしなくてよいものもある)プッシュスタートは光もしないし、キーレスでドアロック・アンロックもできない。
・タントに紐づけられたボディ統合ユニットを代車のステラにつけたら、キーレスでドアロック・アンロックができない。ただプッシュスタートは緑色に光ったので、始動を試みたが失敗。これもタントのイモビに紐づいているからダメなんだと。
この年代の車って、CAN通信でつながってます。
CAN通信って何かっていうと、いろいろなコンピューターが神経みたいに接続されているのです。エンジンをコントロールするコンピューター。ボディを統合するコンピューター。エアバックコンピューターやミッションのコンピューターなどなど。
その為、イモビライザーの登録をしないことには他のコンピューターが認識しないので、
エンジンが始動できないと。
この時点で、もしかしてこの故障ってボディ統合ユニットじゃないんじゃないって。疑問に思ったんです。

もう一度、故障していたと判断された統合ユニットをタントにつけました。
この状態だとイモビライザーは認識してくれます。キーのロック・アンロックができるし、プッシュスタートのボタンも緑になる。
整備書のフローや情報を見て、ダイハツのK氏から教わった状況から、こいつしかないなと判断。

電動ステアリングロック。
昔のハンドルロックって、機械的にガシャとハンドルをロックしました。
今の車って、アクチュエーターになってます。電気で動かしてるんです。

このステアリングロックとボディ統合ユニットへつながる配線の導通をチェックしたら問題なし。
となるとフローとすればステアリングロックの異常と判断。
交換に踏み切りました。中にECUが入っているようで2万円。

結果どうなったかというと、エンジンが始動できたんです。
今回の故障はボディ統合ユニットではなくて、ステアリングロックECUが不良であった。という結論でした。

しかしこれが壊れると、IGがONにできないので診断機をつなげることができない。
これが非常に今回手こずらせてくれました。
綺麗な整備じゃなくて、割と力技のチェンジニア的な作法で進めてしまいましたけど、納期を考えるとこれが最善だったと思います。
また、タイミングよく僕が診断をする時に代車が戻ってきていたので、統合ユニットの付け替えなどをテストすることができたのも、原因を特定する近道になれたと思います。
お客さんと直にやりとりをすると、相手がどれだけ困ってるかがよくわかります。そして、代車を出している以上、長く預かることは難しくなる。ある程度見切りをつけて作業を進めていかないとダメだし、納期に向けてちょっと無理をしないといけない時が来る。
自分には整備士としての技術があるとは思ってないし、後輩整備士たちの方が作業はめちゃくちゃ速い。ではピンポイントに内科医のように診断できるのかっていうとそうでもない。
ただ、そこにあるのはなんとかしなくちゃ仕事が回らなくなる。という危機感。なんとかしないとダメな時は休みだろうがなんだろうが出てきます。
こんなことは当たり前だと思ってしまう僕は昭和脳なのですみません。

ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。