警告灯を消しただけで5,000円?診断機をつないだだけなのに料金が発生する理由

車のメーターに、突然見慣れない警告灯が点灯した。

心配になって整備工場へ持っていくと、整備士が車内のコネクターへ診断機を接続します。

しばらく画面を操作したあと、警告灯は消えました。

作業時間は十数分。請求された料金は5,000円。

ここで、こんな疑問を持つ人もいると思います。

「診断機をつないで警告灯を消しただけなのに、5,000円もかかるの?」

確かに、外から見れば診断機のボタンを何回か押しただけに見えるかもしれません。

部品を交換したわけでもない。

車を分解した様子もない。

手を油で汚しているわけでもない。

それなのに料金が発生すると、納得できない人がいるのも理解できます。

しかし、実際の故障診断は「診断機をつないだら壊れている部品が表示される」というほど簡単ではありません。

診断機に表示されるのは故障箇所ではない

診断機を車へ接続すると、コンピューターに記録された故障コードを読み出せます。

例えば、

「右前輪の車輪速センサー系統異常」

「エンジン冷却水温センサー信号異常」

「運転席サイドエアバッグ回路断線」

といった内容です。

ところが、これは必ずしも、

「その部品が壊れているから交換してください」

という意味ではありません。

右前輪の車輪速センサー系統異常が記録されていても、原因はセンサー本体とは限りません。

配線が切れている。

コネクターが抜けている。

端子が腐食している。

センサーへ供給される電源に問題がある。

ハブベアリングに組み込まれた磁気部分が損傷している。

タイヤサイズが前後左右で違う。

コンピューター側に異常がある。

さまざまな可能性があります。

診断機が教えてくれるのは、あくまで「この系統で正常ではない信号を検知しました」という入口です。

その情報をもとに、本当の原因を探すのが整備士の仕事です。

故障コードを消すだけなら数十秒

故障コードを消去する操作だけなら、それほど時間はかかりません。

診断機で対象のコンピューターを選び、故障コード消去を実行すれば、警告灯が消えることがあります。

ただし、原因が残っていればすぐに再点灯します。

場合によっては、その場では消えても、数日後や特定の条件がそろったときに再び点灯します。

警告灯が消えたことと、故障が直ったことは同じではありません。

整備工場としては、記録されていた故障コードを確認し、現在も異常が続いているのか、一時的な異常だったのかを判断しなければなりません。

そのために、現在値を確認したり、配線やコネクターを点検したり、試運転を行ったりします。

修理後であれば、故障コードを消去してから再び異常を検知しないか確認します。

お客さんには「警告灯を消しただけ」に見えても、その前後では原因を見極める作業が行われています。

診断料金はボタンを押す料金ではない

故障診断で料金が発生する理由は、診断機のボタンを押すことに価値があるからではありません。

読み出した情報をどう判断するかに価値があります。

同じ故障コードが表示されても、車種や年式によって原因は変わります。

過去に多発している不具合なのか。

配線が傷みやすい場所があるのか。

水が入りやすいコネクターなのか。

部品交換前に確認すべきポイントがあるのか。

整備士は整備書や配線図、過去の修理事例などを確認しながら原因を絞り込みます。

必要であれば、テスターで電圧や抵抗を測定します。部品へ電気が届いているか、信号が正常に戻っているかも調べます。

診断機はあくまで道具です。

医師が検査機器の数値だけを見て、何も考えずに病名を決めるわけではないのと同じです。

車でも、表示された情報を読み解く知識と経験が必要になります。

診断機自体も無料ではない

整備工場で使用している診断機にも費用がかかります。

簡易的な機種もありますが、多くの車種やシステムへ対応できる業務用診断機は高額です。

本体を購入すれば終わりではありません。

新型車や新しい制御システムへ対応するため、ソフトウエアの更新も必要になります。メーカーごとの専用機や専用情報が必要になることもあります。

さらに、診断機の結果を正しく判断するための研修や勉強も欠かせません。

近年の車には、エンジンやブレーキだけでなく、エアバッグ、電動パーキングブレーキ、衝突被害軽減ブレーキ、車線維持支援、ハイブリッドシステムなど、多数の電子制御装置が搭載されています。

整備士は、それらを理解したうえで診断しなければなりません。

診断料金には、機器の購入費や更新費だけでなく、技術を維持するための費用も含まれています。

無料で診断してくれる工場もある

もちろん、すべての工場が診断機を接続しただけで必ず5,000円を請求するわけではありません。

車検や点検、修理を依頼したお客さんへのサービスとして、簡単な故障コードの確認を無料で行う工場もあります。

そのまま修理を依頼すれば、診断料を修理工賃へ含める場合もあります。

反対に、診断だけを依頼した場合や、時間をかけて故障箇所を特定した場合には、診断料が必要になります。

料金設定は工場によって違います。

問題になるのは、料金が発生すること自体よりも、事前の説明がないことです。

預ける前に、

「診断にはいくらかかりますか?」

「修理を依頼した場合、診断料は修理代に含まれますか?」

「追加の点検が必要になったら、先に連絡をもらえますか?」

と確認しておくと、会計時の行き違いを防げます。

市販の診断機で自分でも消せる?

現在は個人向けの簡易診断機も販売されています。

車のOBDコネクターへ接続し、故障コードの読み出しや消去ができる製品もあります。

自分の車を管理する道具としては便利です。

ただし、故障コードを消せたからといって、修理が完了したわけではありません。

特にエアバッグやABS、ブレーキ、ハイブリッドシステムなど、安全に関係する警告灯を安易に消して乗り続けるのは危険です。

コードを消すと、整備工場が診断するときに重要な記録が失われることもあります。

警告灯が点灯したら、まずコードを消すのではなく、点灯したときの状況を記録しておくことをおすすめします。

エンジン始動直後だったのか。

走行中だったのか。

雨の日だったのか。

段差を越えた直後だったのか。

ほかの警告灯も同時に点灯したのか。

エンジンの調子やブレーキの感触に変化があったのか。

こうした情報が、原因を特定する大きな手掛かりになります。

交換せずに直れば安い診断だったともいえる

故障診断へ5,000円を支払い、配線の接触不良やコネクターの抜けを直しただけで症状が改善したとします。

部品を交換していないため、

「何も交換していないのに高い」

と感じるかもしれません。

しかし、十分に診断せず、疑わしい部品を次々に交換されたらどうでしょう。

センサーを交換して2万円。

直らないのでコンピューターを交換して10万円。

それでも直らず、最後に配線の接触不良が見つかった。

こちらの方が、はるかに大きな負担になります。

診断とは、不要な部品交換を防ぐための作業でもあります。

部品を交換せずに原因を特定できたのなら、それは「何もしていない」のではなく、必要のない修理代を抑えられたということです。

整備士の仕事は部品交換だけではない

目に見える部品を交換すれば、料金の理由は分かりやすいものです。

一方で、故障診断は成果が見えにくい仕事です。

診断機を接続する。

故障コードを読む。

配線図を確認する。

現在値を比較する。

電圧を測る。

コネクターを点検する。

試運転をする。

再点灯しないことを確認する。

こうした工程を経ても、会計時に見えるのは「警告灯が消えた」という結果だけです。

だからこそ、整備工場側にも説明が必要だと思います。

どのような故障コードが入っていたのか。

何を確認したのか。

今回はなぜ警告灯が点灯したのか。

再点灯した場合はどうすればよいのか。

そこまで説明してもらえれば、5,000円の意味も理解しやすくなります。

診断機をつないだだけに見えても、本当に料金が発生しているのは、その画面に表示された情報を読み解き、余計な部品を交換せずに原因へたどり着くための技術です。

警告灯を消すのは、誰でもできる場合があります。

しかし、なぜ点灯したのかを判断するのは簡単ではありません。

故障診断料とは、ボタンを押す料金ではなく、正しい修理へ進むための料金なのです。

noteと週刊MHO通信を始めました

整備士として働いてきた約25年間の体験や、チームMHOを始めてから現在に至るまでの出来事を、noteで少しずつ書き始めました。

普段の自動車記事では書ききれない、修理現場での経験、仕事への考え方、独立するまでの道のりなども残していく予定です。

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