千葉県で大雨による大規模な水没被害が発生し、報道では放置車両が2500台にも及ぶとされています。
水没した車を見て、真っ先に気になるのは、
「この車、直せるの?」
ということではないでしょうか。
車両保険に加入していれば、全損扱いになって廃車になるケースもあります。
しかし、すべての人が十分な保険に加入しているとは限りません。
「車がないと仕事に行けない」
「買い替えるお金がない」
「長年乗ってきた車だから、できれば直したい」
そんな事情もあります。
では、水没した車はどこまでなら再生できるのでしょうか。
実は僕は、2019年の台風19号で水没した車の復旧作業に関わり、実際に3台を再生した経験があります。
その経験から言うと、水没車にはかなりシビアな分岐点があります。
水没した車を見たとき、単純に
「エンジンがかかるか」
だけで判断してはいけません。
むしろ重要なのは、
「水が車のどこまで入ったのか」
です。
特に怖いのが室内への浸水。
フロアまで水が入っている程度なら、状態によっては復旧できる可能性があります。
しかし、シートまで水に浸かるほど室内が水没してしまった車になると、話は一気に難しくなります。
なぜなら、車には床の下や室内のいたるところに配線やコンピューターなどの電子部品が隠れているからです。
最近の車は、昔の車とは比べものにならないほど電子制御されています。
エンジンだけ動けばいい、という話ではありません。
2019年の台風19号では、長野県でも千曲川が決壊し、大規模な水害になりました。
僕もそのとき、水没した車を再生したり、廃車にしたりする仕事に関わりました。
その中で印象に残っているのが、近隣のディーラーから聞いた話です。
車両ハーネスが水に浸かった車について、メーカーから「再生せず廃車にするように」という指示が出ていました。
それくらい水没車の電装系は厄介です。
水に浸かった瞬間に壊れるとは限りません。
一度は普通に動いていても、時間が経ってから電装系にトラブルが出ることがあります。
水分や泥、汚れなどが残っていれば、後から接触不良や腐食などの問題につながる可能性があります。
だからこそ、水没車の修理は
「今エンジンがかかったから大丈夫」
とは言えないのです。
それでも、すべての水没車が即廃車というわけではありません。
実際に僕は3台の水没車を再生しました。
ただし、普通の修理とはまったく違います。
まず、剥がせるものは徹底的に剥がします。
シートを外す。
カーペットを外す。
内装を外す。
そして、洗浄できるものは徹底的に洗浄する。
水に浸かった配線や電子部品についても、状態を確認し、必要なものは交換します。
つまり、
「ちょっと乾かしてエンジンをかければ復活」
というような話ではありません。
水没車の復旧は、ほとんど車を一度バラしていくような作業になります。
僕が経験した中で、一つの目安になるのが、
「シートの下までで浸水が収まっているか」
です。
もちろん、これは絶対的な基準ではありません。
車種や浸水した時間、水の種類、車両の状態によっても大きく変わります。
ただ、僕の経験では、シート下程度までで収まっている車なら、条件次第で再生できる可能性があります。
もちろん、水に浸かった部品をそのまま使うわけではありません。
ハーネスやコンピューターなど、浸水した電子部品については交換が必要になる場合があります。
そして、ここでもう一つ重要なことがあります。
僕が水没車を再生するときに、最初にお客さんに理解してもらっていたのが、
「その時は直ったとしても、後からトラブルが出る可能性があります」
ということでした。
これを了承してもらえること。
ここは非常に重要でした。
普通の修理なら、
「ここを交換すれば直ります」
という見積もりを出せます。
ところが水没車は違います。
どこまで交換すれば完全に復旧するのか、最初の段階では判断できないことがあります。
見積もりを出して作業を始めたら、
「ここもダメだった」
「こっちのコンピューターもダメだった」
ということが出てくる可能性があります。
そのため、修理金額も最初から正確に出すのが難しい。
場合によっては、修理を進めるほど金額が膨らんでしまいます。
だから僕は、水没車を再生するときには、そのリスクを説明した上で、それでも修理するというお客さんの車だけを作業していました。
僕が再生した3台の水没車。
そのうち1台は、現在でも原因不明の故障が出ることがあります。
これが水没車の怖いところです。
修理した当時は問題なく走れるようになったとしても、
「これですべて元通り」
とは言い切れない。
水没によって車の内部に入り込んだ水や泥、電子部品への影響が、後から出てくる可能性があります。
だからこそ、僕自身は、
「室内までしっかり浸水した車なら、可能であれば廃車にした方がいい」
と考えています。
これは車の持ち主だけの問題ではありません。
修理する側も非常に困ります。
どこまで直せばいいのか分からない。
どの部品が後から壊れるか分からない。
最初の段階で正確な見積もりを出すのも難しい。
そして、修理後に別の電装トラブルが発生したとしても、
「ここまで直せば絶対大丈夫です」
とは約束できません。
だから水没車の修理は、通常の事故修理や故障修理とはまったく違う難しさがあります。
僕の経験をまとめると、こんな感じです。
まず、エンジンまで完全に水に浸かっている。
この場合は、基本的にかなり厳しいと考えた方がいいでしょう。
そして室内まで浸水して、シートまで水に浸かっている。
この状態になると、僕なら基本的には廃車をおすすめします。
一方で、室内に水が入ってしまったものの、シート下程度までで収まっている。
この場合は、車両の状態によっては再生できる可能性があります。
ただし、
「直せる=元通りになる」
ではありません。
水に浸かった部品を交換・洗浄して一度は復旧できても、後からトラブルが発生する可能性があります。
そのリスクを理解した上で、それでも修理する必要があるのか。
ここが大きな判断ポイントになります。
水没した車を見ると、
「何とかして直したい」
と思うかもしれません。
思い入れのある車なら、なおさらです。
ただ、水没車の場合は、
「修理できるか」
だけではなく、
「修理した後も安心して乗れるのか」
「修理費用がどこまで膨らむ可能性があるのか」
「今後発生する故障のリスクを受け入れられるのか」
まで考える必要があります。
僕自身、実際に3台の水没車を再生しました。
そして、そのうち1台では、今でも原因不明の故障が発生することがあります。
だからこそ、僕なら水没車を修理するときには慎重になります。
室内まで浸水した車は、基本的には廃車。
どうしても直さなければならない事情があるなら、シート下程度までの浸水を一つの目安にする。
ただし、それでも「後から故障する可能性がある」ということを理解しておく。
これが、2019年の台風19号で実際に水没車を再生した僕が考える、水没車を「直すか、廃車にするか」の一つの判断基準です。
そして今回のような大規模な水害で大量の水没車が発生した場合、見た目がきれいになったからといって安心してはいけません。
水没車は、外から見えないところにこそ問題が残っていることがあるからです。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。