「エンジンオイル交換できますか?」
整備工場では、ごく普通に聞かれる言葉です。
車を持ってきてもらって、オイルを抜いて、新しいオイルを入れる。
整備士からすれば、日常的な作業です。
ところが今、その「当たり前」が少しおかしくなっています。
日刊自動車新聞の本日付の一面に、かなり気になる記事が掲載されていました。
全国のディーラーを対象にしたアンケートで、6月末までの間に、約7割のディーラーがエンジンオイル交換の入庫制限を行っていたというのです。
「オイル交換で入庫制限?」
整備士の僕からすると、かなり衝撃的な話です。
日刊自動車新聞が全国のディーラー1022社を対象にアンケートを実施。
168社から回答を得たそうです。
そのうち124社では、6月のエンジンオイル調達量が前年同月より減少。
さらに119社が、仕入れ先からオイルの購入量を制限されたと回答しています。
18社に至っては、仕入れ先からオイルの販売そのものが停止されたとのこと。
つまり、
「ちょっとオイルが高くなった」
という程度の話ではありません。
そもそも、必要なオイルを十分に仕入れられない。
そんな状況が実際に起きていたわけです。
そして、これが整備現場に直接影響します。
53社が、
「新規客のオイル交換を断った」
と回答。
さらに42社は、
「既存のお客さんにオイル交換の延期を提案した」
そうです。
これ、整備士からすると結構すごい話です。
オイル交換って、
「そろそろ交換時期だから予約しよう」
というお客さんが来て、
「はい、交換しておきますね」
で終わる仕事だと思われがちです。
でも、その裏側には、
「その車に入れるオイルを確保しておく」
という当たり前の仕事があります。
そこが崩れると、整備工場はオイル交換そのものを受けられなくなる。
車を預かっても、オイルがない。
これはかなり困ります。
ここで、僕の勤務先の話を少し。
幸いなことに、うちの会社では今回、オイルそのものを確保できないという事態にはなりませんでした。
なので、
「オイルがないので交換できません」
という状況にはなっていません。
ただし。
値上げは実施しました。
これは当然、現場で働いている僕たちにも分かる話です。
仕入れるものの価格が上がれば、会社としても今までと同じ価格で提供し続けるのは簡単ではありません。
特に今回の日刊自動車新聞の調査では、回答したディーラーの約7割にあたる113社でオイルの調達価格が上昇。
そのうち71社が30%未満、40社が30~50%未満、2社が50%以上の上昇だったそうです。
そして、ここがさらに厳しい。
価格上昇分を全額お客さんに転嫁できたのは、わずか34%。
逆に28%は、まったく転嫁できていなかった。
つまり、
「仕入れ値が上がったから、そのまま販売価格を上げればいい」
という単純な話ではないんです。
お客さんからすれば、
「オイル交換が前より高くなった」
という話になります。
でも、その裏側では整備工場も仕入れ価格の上昇に直面しています。
しかも整備工場は、オイルだけを扱っているわけではありません。
人件費。
設備費。
光熱費。
部品代。
工具。
車両の保険。
廃油処理。
さまざまなコストがかかります。
そこへオイルの仕入れ価格まで上がる。
それでも、
「お客さんにいきなり全部負担してもらうのは難しい」
という事情があります。
だからこそ、今回のニュースは単なる「オイル不足」の話ではないと思っています。
自動車整備の仕事をしていると、
「オイルなんて、いつでも買えるでしょ」
と思われていることがあります。
確かに、これまではそうでした。
ホームセンターにもある。
カー用品店にもある。
整備工場にもある。
部品商にもある。
当たり前のように存在していました。
でも、今回の件で、その当たり前が崩れる可能性があることが見えてきました。
しかも影響したのは、一般の整備工場だけではありません。
ディーラーですら入庫制限をするところが出た。
これは自動車業界にとって、かなり大きな出来事です。
ディーラーにとって、オイル交換は単なる整備作業ではありません。
定期的にお客さんに来店してもらうための重要な接点でもあります。
オイル交換をきっかけに、
「タイヤが減っていますよ」
「バッテリーが弱っています」
「次回車検ですね」
といった点検や整備につながる。
だからこそ、今回のオイル不足は単純に、
「オイルがないから交換できない」
だけではありません。
お客さんとの接点そのものが失われる可能性があります。
日刊自動車新聞の記事でも、メンテナンスパックやメンテナンスリースなど、あらかじめ価格を決めて契約しているサービスへの影響が課題になっているとされています。
これは今後、整備業界の商品設計そのものを見直すきっかけになるかもしれません。
ここは少し冷静になってください。
今回のニュースを見て、
「オイルがなくなるかもしれない!今すぐ交換しなきゃ!」
と慌てる必要はありません。
現在は政府の対策などもあり、品薄感は緩和されつつあると報じられています。
ただ、情勢が完全に落ち着いたわけではありません。
だから車のオーナーとしてできることはシンプルです。
「交換時期を把握しておく」
これだけでも十分です。
メーカー指定の交換時期を確認して、必要なタイミングで整備工場に相談する。
これが一番です。
今回のニュースを見て、私は改めて思いました。
普段、何気なく使っているエンジンオイルも、当たり前に手に入るものではないんだな、と。
うちの会社では幸いオイルを確保できています。
でも、仕入れ価格が上がったため、価格改定は避けられませんでした。
お客さんにとっては、
「オイル交換が高くなった」
という出来事。
整備工場にとっては、
「仕入れ価格が上がっている」
という出来事。
その間に立っているのが、僕たち整備士です。
だからこそ、今回の「エンジンオイルショック」は、単なる一時的なニュースではなく、
「これまで当たり前だった整備サービスが、これからも当たり前とは限らない」
ということを考えるきっかけになるのではないでしょうか。
そして、次にオイル交換をするとき。
少しだけ、
「このオイルも、誰かが安定して届けてくれているから使えるんだな」
と思ってもらえたら、現場の整備士としてはうれしいです。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。