
修理から戻ってきた車のメーターを見ると、ガソリンが減っている。
走行距離も、預ける前より増えている。
そのような状態に気づいたら、
「整備士が自分の車を勝手に乗り回したのでは?」
と疑いたくなる人もいるでしょう。
特に燃料が高い時期なら、少し減っているだけでも気になります。
車を修理するために預けたのであって、整備士へ自由に乗ってよいと貸したわけではありません。
お客様が不安に感じるのは当然です。
しかし、車の修理では、実際に道路を走らなければ確認できないことがたくさんあります。
整備工場ではこれをロードテストや試運転と呼びます。
部品を交換しただけで修理が完了するとは限りません。
症状が直ったのか。
別の異音が出ていないか。
ブレーキは正常に効くか。
警告灯が再点灯しないか。
最終的には、実際に車を走らせて確認する必要があります。
異音はリフトに上げただけでは分からない
お客様から多い相談の一つが異音です。
「走っているとゴーゴー音がする」
「段差を越えるとコトコト鳴る」
「右へ曲がるときだけ音がする」
「高速道路を走ると振動が出る」
異音といっても、発生する条件はさまざまです。
整備工場で車を停止させ、エンジンを空ぶかししても音が出ないことがあります。
リフトで車を持ち上げ、タイヤを手で回しても分からない場合があります。
車の重さがタイヤやサスペンションへかかり、実際の道路を走ったときにしか音が出ないからです。
例えばハブベアリングの異音は、速度が上がるほど大きくなることがあります。
右へ旋回して荷重が左側へ移動したときだけ音が変化することもあります。
こうした症状を確認するには、直線道路だけでなく、左右へ曲がる場所も走る必要があります。
段差で出る異音なら、段差のある道路を通らなければ確認できません。
高速域だけで出る振動なら、低速で工場の周囲を一周しただけでは判断できません。
目次
修理前と修理後に同じ場所を走る理由
ロードテストは、修理後だけに行うものではありません。

まず修理前に走り、お客様が訴えている症状を確認します。
その後、点検して原因を特定し、必要な部品を交換します。
そして修理後にもう一度、できるだけ同じ道路、同じ速度、同じ条件で走ります。
修理前には出ていた音が、修理後には消えた。
ハンドルへ伝わっていた振動がなくなった。
ブレーキを踏んだときの違和感が改善した。
これを確認して、初めて修理結果を判断できます。
部品を交換しただけで、
「おそらく直ったでしょう」
と車を返すわけにはいきません。
もし症状が直っていなければ、お客様は再び車を持ち込まなければならなくなります。
仕事や家庭の予定を調整して来店し、代車へ荷物を移し、また車を預ける。
お客様にとっても大きな負担です。
一度で確実に修理を終わらせるためにも、ロードテストは必要なのです。
エンジンが温まらないと出ない故障もある
車の故障には、冷えているときだけ出る症状と、温まってから出る症状があります。

朝一番だけエンジンがかかりにくい。
始動直後だけ異音がする。
30分ほど走ると加速が悪くなる。
高速道路を走ったあとに警告灯が点く。
渋滞にはまるとエアコンが効かなくなる。
このような故障は、工場へ入庫した直後に確認できるとは限りません。
エンジン、ミッション、冷却水、オイルなどが一定の温度になるまで走らなければ、症状が再現しないからです。
短い試運転では何も起きず、
「異常は確認できませんでした」
と返却した直後、お客様が帰宅する途中で症状が出ることもあります。
そのため、症状によっては10km、20kmと走る必要があります。
燃料計を見ると予想以上に減ったように見えるかもしれませんが、故障を再現し、修理後の状態を確認するために必要な走行だった可能性があります。
ブレーキ修理後には必ず確認したい
ブレーキパッドやローター、キャリパーなどを修理したあともロードテストを行います。

ブレーキペダルの感触は正常か。
ブレーキをかけたときに左右どちらかへ流れないか。
引きずりがないか。
異音がしないか。
ABS警告灯などが点灯しないか。
こうした部分を確認します。
ブレーキパッドやローターを新品へ交換した直後は、接触面が完全になじんでいません。
何度か慎重にブレーキをかけ、状態を確認する場合もあります。
整備工場の敷地内だけでは、十分な速度からの制動状態を確認できないことがあります。
だからこそ、公道で安全を確認しながら試運転を行います。
ハンドルや足回りの修理も同じです。
直進時にハンドルがずれていないか。
車が左右へ流れないか。
段差を越えたときに異音がしないか。
ナットやボルトを締めたというだけでは、車として正常に走れるかまでは判断できません。
警告灯は一度消えても再点灯することがある
診断機を使って故障コードを消去すると、警告灯はいったん消えることがあります。

しかし、警告灯が消えたから修理完了とは限りません。
コンピューターが再び同じ異常を検知すれば、走行中に警告灯が点灯します。
例えば、
特定の速度になったとき。
エンジンへ負荷がかかったとき。
決められた回数の自己診断を行ったとき。
車輪速センサーがすべてのタイヤの回転を検知したとき。
こうした条件がそろわなければ、異常判定が行われないことがあります。
そのため修理後にある程度走り、警告灯が再点灯しないことを確認します。
警告灯だけ消してすぐ返却する方が、作業としては早く終わります。
しかし、それでは本当に原因が直ったのか分かりません。
整備士が距離を走るのは、警告灯をごまかすためではなく、修理結果を確認するためでもあります。
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燃料計は少し走っただけで大きく動くこともある
燃料計は、燃料の量を常に寸分違わず表示しているわけではありません。

車体の傾き。
駐車している場所。
燃料タンクの形。
走行中の燃料の揺れ。
メーター表示の制御。
こうした影響によって、針や目盛りの動き方が変わります。
預ける前には半分より少し上だったのに、戻ってきたら半分より下になっている。
見た目には一目盛り近く減ったように感じても、実際に大量の燃料を使用したとは限りません。
また、整備中にはエンジンをかけたまま点検することがあります。
冷却ファンの作動確認。
エアコンの温度確認。
充電電圧の点検。
警告灯やエンジン不調の診断。
排気ガスの確認。
走行距離は増えなくても、アイドリング中に燃料を使う作業があります。
走行距離だけを見て、
「これくらいしか走っていないのに、なぜ燃料が減ったのか」
と思うことがあるのは、このためです。
どこまで走ってよいのか
ロードテストが必要だからといって、整備士がどこまでも自由に走ってよいわけではありません。

故障診断や修理確認に必要な範囲で行うべきです。
近所を数km走れば確認できる症状なのに、理由もなく何十kmも走っていた。
休憩や私用のために車を使った。
修理とは関係のない場所へ行った。
そのような使い方は、ロードテストとは呼べません。
試運転の距離が長くなる場合、整備工場は事前に説明した方がよいと思います。
「高速道路でしか症状が出ないため、20kmほど走らせてください」
「エンジンが温まってからの状態を確認するため、長めの試運転を行います」
この一言があるだけで、お客様の受け取り方は大きく変わります。
走行距離や燃料が減る可能性を知らされず、返却後に初めて気づけば、不信感につながります。
整備工場側も、入庫時と出庫時の走行距離を記録しておくべきです。
燃料が少ない場合は事前に相談したい
入庫した時点で燃料がほとんど入っていない車もあります。

警告灯が点灯し、航続可能距離もわずか。
その状態では必要なロードテストができません。
整備工場によっては、必要な分だけ給油し、後から燃料代を請求する場合があります。
しかし、これも勝手に給油するのではなく、事前に連絡するのが基本です。
「試運転が必要ですが、燃料が少ないため1,000円分給油してよいですか?」
と確認すれば、トラブルを防げます。
一方、お客様も異音やエンジン不調の修理を依頼する場合、可能ならある程度燃料を入れておくと診断が進みやすくなります。
特に、症状が出るまで長く走る必要がある車では、燃料が少ないだけで診断を中断しなければならないことがあります。
不安なら走行距離を記録しておく
車を預けるときに不安があるなら、走行距離と燃料計をスマートフォンで撮影しておく方法があります。

これは整備工場を疑うためだけではありません。
預ける側と預かる側の両方が、最初の状態を確認できるからです。
車体の傷。
走行距離。
燃料の量。
警告灯。
車内の荷物。
こうした部分を入庫時に確認しておけば、返却時に認識が食い違うのを防げます。
整備工場側も、受付時に走行距離や燃料残量を記録していることがあります。
試運転後に距離が大きく増えた場合は、
「症状の再現と修理確認のため、合計で15kmほど走行しました」
と説明できます。
何も記録がなければ、お客様も整備工場も記憶だけで話すことになります。
それが余計なトラブルにつながります。
ガソリンが減っていたら、まず理由を聞いてほしい
修理から戻った車の燃料が減っていたら、すぐに「勝手に乗り回された」と決めつける必要はありません。

まず、どのような試運転を行ったのかを確認してください。
修理前の症状確認。
修理後の再発確認。
ブレーキや足回りの安全確認。
エンジンが温まった状態での点検。
警告灯が再点灯しないかの確認。
こうした理由で必要な走行だった可能性があります。
一方、整備工場も、
「修理の確認で走りました」
だけで終わらせず、何を確認するために、どの程度走ったのかを説明することが大切です。
車の修理は、部品を交換した瞬間に終わるものではありません。
実際に走らせて、症状が直り、安全に返せることを確認して初めて完了します。
修理後に走行距離が増え、ガソリンが少し減っている。
そこには、整備士が最後まで責任を持って修理結果を確認した証拠が含まれていることもあるのです。
今故障診断は非常に複雑化してきています。自分でもある程度把握したいのなら、簡易的な診断機を持っていると便利です。CAN通信対応後の車両なら、これである程度読み取れます。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。