CVTフルードを交換しても直らない異音とは?うなり音の原因と無交換の理由を整備士が解説

駆動系

CVTフルードは交換した方がいいのか。それともメーカーが指定しているように無交換でいいのか。

これは昔から意見が分かれるテーマです。

僕自身、長年整備の現場にいて、CVTの故障や異音に何度も向き合ってきました。

中でも印象に残っているのが、走行中に「ウォーン」「ウィーン」といったうなり音が発生するCVTです。

このような異音が出ると、CVTフルードを交換すれば改善するのではないかと考える人もいると思います。

しかし、実際にはフルード交換だけで直らず、CVT本体を載せ替えるケースもあります。

一方で、トヨタのノアなど、通常使用ではCVTフルードの定期交換を指定していない車も存在します。

油は使用すれば徐々に劣化する。それなのに、なぜメーカーは無交換という考え方を採用しているのでしょうか。

今回はCVTの内部構造、異音の原因、大トルクに対応できるようになった技術的な進化、そしてフルード交換の必要性まで考えてみたいと思います。

CVTはどのような仕組みで動いているのか

まず、一般的な金属ベルト式CVTの構造を簡単に整理しておきます。

CVTはContinuously Variable Transmissionの略で、日本語では無段変速機と呼ばれています。

一般的なベルト式CVTには、プライマリプーリーとセカンダリプーリーという2組のプーリーがあります。

その間を金属ベルトでつなぎ、プーリーの溝幅を変化させることで、変速比を連続的に変えているのです。

通常の多段式ATとは違い、決まった段数に切り替える必要がないため、エンジン回転数を効率の良い領域に保ちやすい特徴があります。

ただし、これを成立させるためには、精密な油圧制御が必要です。

CVTフルードは、ベアリングやギヤの潤滑だけでなく、プーリーの挟圧力を発生させ、適切な摩擦特性を保つ役割も担っています。

つまり、CVTフルードは単なる潤滑油ではなく、変速機を正常に動かすための重要な作動油でもあるわけです。

CVTから発生する「ウォーン」といううなり音

CVTの不具合で比較的よく耳にするのが、走行中のうなり音です。

車速が上がるにつれて「ウォーン」という音が大きくなったり、加速時に「ウィーン」と響いたりすることがあります。

僕も以前は、この音が金属ベルトとプーリーの接触部分から発生しているのではないかと考えていました。

実際、ベルトとプーリーの接触による振動は、CVTの騒音を考えるうえで重要な要素です。

しかし、CVT内部の異音はそれだけではありません。

特に注目したいのが、プーリーを支持しているベアリングです。

ベアリングの転動面に摩耗や剥離が発生すると、回転に伴って特徴的なうなり音が発生することがあります。

CVT内部では、プーリーやベアリングが高い荷重を受けながら高速回転しています。

そのため、内部部品に損傷が発生すると、フルード交換だけでは改善できない状態になってしまうことがあります。

ただし、音だけでベアリング不良と確定することはできません。

オイルポンプ、ギヤ、デファレンシャル、さらにはホイールベアリングなど、別の部品から似た音が出る場合もあります。

異音が発生する車速、エンジン回転数、アクセル操作との関係などを確認して、原因を切り分ける必要があります。

CVTフルードを交換しても直らない異音がある

ここは特に知っておいてほしい部分です。

仮にCVT内部のベアリングが摩耗し、転動面に傷が入っていたとします。

この状態で新しいCVTフルードに交換したとしても、傷ついたベアリングが元通りになるわけではありません。

金属ベルトやプーリーに物理的な損傷が発生している場合も同様です。

フルードを交換すれば潤滑状態や油圧制御に関係する条件が改善する可能性はあります。

しかし、すでに損傷した金属部品を修復することはできません。

僕は、CVTフルードの交換は基本的に予防整備だと考えています。

正常なCVTを長く使うために行うものであって、壊れたCVTを修理するための作業ではありません。

もちろん、フルードの劣化や油圧系の問題が症状に関係していて、交換によって改善するケースも考えられます。

だからこそ、異音が出たらすぐ交換ではなく、原因診断を先に行うべきなのです。

実際に異音が発生してCVTを載せ替えた事例

僕が整備の現場で経験した中にも、異音が発生したCVTを載せ替えた事例があります。

こうした作業では、車両からCVTを取り外して交換することになります。

CVT本体の修理や載せ替えは高額になりやすく、車両の年式や走行距離によっては、修理を続けるかどうかの判断にも関わってきます。

実際の異音を録音した動画があれば、文章だけでは伝えにくい音の特徴を確認できると思います。

ただし、実車の異音原因が分解によって確定していない場合には、ベアリングや金属ベルトのどちらが原因だったのかを断定することはできません。

なぜ昔のCVTは大排気量エンジンが苦手だったのか

CVTは以前から、大きなエンジンや重量級の車両には不向きだと言われることがありました。

その理由の一つは、金属ベルトとプーリーによって動力を伝える構造にあります。

エンジンのトルクが大きくなれば、それだけベルトを滑らせずに動力を伝えるための挟圧力が必要になります。

挟圧力を高めるためには油圧を使いますが、油圧を発生させること自体にもエネルギーが必要です。

さらに、ベルトやプーリーの強度、内部の発熱、冷却性能も考慮しなければなりません。

特に発進時や低速域では、ベルトに大きな負担がかかります。

このような理由から、高トルクへの対応はCVTの重要な技術的課題でした。

ただし、CVTが大排気量車に使えなかったというわけではありません。

以前から3.5Lクラスのエンジンに対応したCVTも開発されており、長い時間をかけて高トルク化が進められてきました。

最近のCVTがミニバンにも使われる理由

現在では、ノアやヴォクシーのようなミニバンにもベルト式CVTが採用されています。

これはベルトそのものの強度向上に加え、プーリーや油圧制御、冷却技術などが進歩したためです。

例えば、トヨタのDirect Shift-CVTでは、発進時に専用のギヤを使用する仕組みが採用されています。

発進時の大きな負荷をギヤで受け持つことで、ベルトが担当する変速領域を効率化できるのです。

一方、すべてのCVTに発進ギヤが付いているわけではありません。

車種や変速機の型式によって構造は異なります。

また、ハイブリッド車に使われる電気式無段変速機は、一般的な金属ベルト式CVTとは構造が異なるため、同じものとして考えないようにする必要があります。

CVTは、長年にわたる設計改良によって対応できる車両の幅を広げてきたわけです。

現行ノアはCVTフルードが無交換なのか

ここで具体例として、90系ノアのガソリン車を見てみます。

トヨタが公開している2022年1月版のノア・ヴォクシー用メンテナンスノートでは、CVTフルードの交換について次のように定めています。

使用条件CVTフルード交換時期
通常使用定期交換指定なし
シビアコンディション10万kmごと

CVTフルード交換に該当するシビアコンディションは、雪道や砂利道などの悪路走行が多い場合、山道や登降坂路の走行が多い場合などです。

つまり、通常使用では定期交換を指定していない一方で、使用環境によっては10万kmごとの交換が必要になるということです。

ちなみに指定フルードはトヨタ純正CVTフルードFEです。

取扱説明書には全容量の参考値として8.5Lと記載されていますが、これは通常の交換作業で抜ける量を示した数字ではありません。

MHO ENGINEERING 90系ノア整備諸元DB

ノアのエンジンオイル、CVTフルード、冷却水などの整備データは、MHO ENGINEERINGの整備諸元DBでも確認できるようにする予定です。

※交換基準は車種や年式、使用条件で異なるため、実際の整備では該当車両のメンテナンスノートを確認してください。

なぜ油が劣化するのにメーカーは無交換を指定するのか

ここが僕としては一番考えたいところです。

エンジンオイルでもCVTフルードでも、使用による劣化がまったくないということはありません。

熱、酸化、せん断、摩耗粉などの影響を受け、少しずつ状態は変化していきます。

それなのに、メーカーは通常使用では無交換としている車種があります。

なぜでしょうか。

まず考えられるのは、メーカーが想定する使用条件の範囲内で、フルードの性能が十分に維持できると判断していることです。

現在のCVTフルードは長寿命化が進み、交換を前提としない管理方法が成立する場合もあります。

ただ、僕はそれだけではないのではないかと考えています。

もう一つの理由として、交換作業に伴うリスクも無視できないからです。

もちろん、これはメーカーが無交換を指定する公式な理由として確認できたわけではありません。

整備の現場に長くいた立場から考えた、一つの可能性です。

指定フルードを間違えるリスク

CVTフルードは、ただの潤滑油ではありません。

ベルトとプーリーの接触状態や油圧制御に深く関係しています。

そのため、似たようなCVTフルードでも、指定と異なる製品を使用すると不具合につながるおそれがあります。

実際にトヨタのノアの取扱説明書には、指定外のフルードを使用すると振動や異音、故障の原因になる可能性があると記載されています。

CVTフルードは、車種や変速機に合った製品を使うことが基本です。

油量調整を間違えるリスク

最近のCVTには、オイルレベルゲージを持たないタイプもあります。

指定された油温で油面を調整する方式の場合、正しい手順を理解していないと油量が適正になりません。

油量が不足すれば潤滑や油圧制御に悪影響が出る可能性があります。

反対に、過剰な油量も正常な作動を妨げることがあります。

交換することでかえって不具合を起こしてしまうのであれば、本末転倒です。

異物が混入するリスク

CVT内部には、精密に作られた油圧制御用のバルブボディやソレノイドがあります。

交換作業中にゴミやホコリが混入したり、既存の汚れが移動したりすれば、油圧制御に悪影響を及ぼす可能性があります。

ただし、フルードを交換しただけで必ず汚れが剥がれ、バルブボディが詰まるというわけではありません。

大切なのは、正しい作業方法と清潔な作業環境です。

僕は、こうした交換作業そのもののリスクも、メーカーが長寿命フルードを採用するメリットの一つになっているのではないかと思います。

それでも僕はCVTフルードを交換した方がいいと思っている

ここまで説明しておきながらですが、僕自身は油脂類を基本的に交換すべきものだと考えています。

エンジンオイルも、デフオイルも、トランスミッションフルードも同じです。

理由は単純で、油脂類は使用している間に徐々に劣化していくからです。

ただし、劣化することと、一定の走行距離で必ず交換が必要になることは別問題です。

メーカーが無交換を指定しているからといって、その車が間違った設計になっているとも思いません。

メーカーは性能試験や耐久評価を行い、使用条件に応じた整備基準を設定しています。

それでも、長く乗り続ける車については、状態を確認したうえで予防的に交換する選択肢があっていいと思うのです。

例えば、10年、15年と乗り続ける予定の車や、20万km以上を目指す車であれば、フルードの状態を管理する意味はあるはずです。

もちろん、交換する場合は指定された油種と作業手順を守ることが前提です。

CVTフルードは何万kmで交換するべきなのか

これについては、すべての車に当てはまる正解はありません。

メーカーによっても車種によっても交換指定が違います。

ダイハツでは5万kmを交換目安として案内している一方、トヨタの90系ノアでは通常使用で定期交換の指定がありません。

だから、すべてのCVTを4万kmや5万kmで交換しなければならないと断定するのは適切ではありません。

僕の考えとしては、長期間乗り続けるつもりの車なら、4万〜5万km前後から整備履歴や使用状況を見直し、交換の必要性を検討するのは悪くないと思っています。

ただし、それはメーカー共通の指定距離でも、故障を防げると保証された距離でもありません。

特に10万km以上で一度も交換されていない車の場合は、異音や振動の有無、フルードの状態、車両の整備履歴を慎重に確認した方がいいと思います。

高走行だから絶対に交換してはいけないということではありませんが、無条件で交換するのも避けるべきです。

実際にデイズのCVTフルードを交換した記録

僕は以前、日産デイズのCVTフルードを交換したことがあります。

純正のNS-3を使用し、抜き取ったフルード量を確認しながら希釈交換を行いました。

このときの作業は、写真付きの記事にまとめています。

デイズ、CVTフルードをDIYで交換してみた

実際のフルード交換に興味がある人は、こちらも参考にしてみてください。

なお、車種によって交換方法や油量調整手順は異なります。デイズで行った方法が、そのまま他のCVTにも適用できるわけではありません。

CVTフルードの交換より先にやるべきこと

走行中にうなり音が発生している場合、まず必要なのは異音の原因を確認することです。

CVT内部のベアリングが傷んでいるのか。

金属ベルトやプーリーに問題があるのか。

それとも、デファレンシャルやホイールベアリングなど、別の部品が原因なのか。

こうした切り分けを行わずにCVTフルードを交換しても、根本的な問題が解決しないことがあります。

診断機で故障コードや油温、関連データを確認することも重要です。

MHO ENGINEERING DTC故障コードDB

CVT関連の故障コードが記録されている場合は、コードの意味と適用条件を確認して、診断の手がかりにする必要があります。

ただし、故障コードが出ていないからといって、機械的な異常が存在しないとは限りません。

CVTフルードは壊れてからではなく、壊れる前に考えるもの

CVTのうなり音は、金属ベルトとプーリーの接触部分だけでなく、ベアリングやギヤなど、さまざまな場所から発生する可能性があります。

すでに内部部品が損傷している場合、CVTフルードを交換しても根本的な修理にはなりません。

一方で、CVTフルードには潤滑、冷却、油圧制御、摩擦特性の維持という重要な役割があります。

長期間使えば、フルードの状態が変化していくことも確かです。

メーカーが無交換を指定しているのは、想定する使用条件で十分な耐久性を確保しているためと考えられます。

さらに、交換作業で発生する油種間違いや油量調整ミス、異物混入などのリスクを減らせるという側面もあるでしょう。

ただ、僕としては、車をできるだけ長く乗り続けたいのであれば、CVTフルードの予防交換を検討する価値はあると思っています。

もちろん、メーカーの指定を確認し、適切なフルードを適切な方法で交換することが大前提です。

CVTフルードは、壊れたCVTを直すためのものではありません。正常なCVTを長く使うために、状態を管理していくものです。

これが、長年整備の現場にいて感じてきた僕の考えです。


参考資料

※掲載するCVT内部構造の画像は、一般的な機構を説明するためのAI生成イメージです。実車の内部を撮影した写真や、特定メーカーの純正整備図ではありません。

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