車に何か異常が起きれば、メーターに警告灯が点灯する。

そう思っている人は多いのではないでしょうか?
確かに今の車にはたくさんの警告灯があります。
エンジン。
ABS。
エアバッグ。
充電系統。
ブレーキ。
ハイブリッドシステム。
何か異常が発生すると、車載コンピューターがそれを検知してドライバーへ知らせてくれます。
では逆に、
「警告灯が何もついていなければ、車に故障はない」
と言えるのでしょうか?
実はそうとも限りません。
最近の車を診断機につないでみると、
「警告灯なんて何もついてないけど?」
という車から故障コードが出てくることがあります。
これが今の車の、ちょっと怖いところです。
目次
昔の故障診断は五感をかなり使っていた
僕が整備士になった頃と現在では、故障診断の方法がかなり変わりました。

もちろん昔の車にも電子制御はありました。
しかし今ほど車全体がコンピューターで制御されていたわけではありません。
エンジンの調子が悪い。
まず音を聞く。
振動を見る。
プラグを外す。
火花を見る。
燃料が来ているか調べる。
圧縮を測る。
異音ならサウンドスコープを当てたり、長いドライバーを部品に当てたりして音の発生源を探す。
オイルが漏れていたら、実際に目で追いかけて漏れている場所を探す。
整備士の目、耳、手などを使って原因を絞り込んでいくわけです。
当然、現在でもこうした基本的な診断は重要です。
ところが今の車では、それだけでは分からない故障が増えています。
今の車にはたくさんのコンピューターが搭載されている
現在の車にはECUと呼ばれる電子制御ユニットがいくつも搭載されています。

エンジンを制御するコンピューター。
ミッションを制御するコンピューター。
ABSや横滑り防止装置。
エアバッグ。
電動パワーステアリング。
時にはメーター。
エアコン。
ボディ電装。
先進安全装備。
車種によって構成は違いますが、さまざまな装置が電子制御されています。
さらに、それぞれが独立して動いているわけではありません。
車内のネットワークを使って、お互いに情報をやり取りしています。
例えば、
「車速は今何km/h」
「ハンドルはどちらへ何度切られている」
「ブレーキを踏んでいる」
「エンジン回転数はいくつ」
といった情報を複数のシステムでCAN通信にて共有しています。
今の車は、巨大な機械であると同時に、コンピューターネットワークでもあるわけです。
故障コードが入っていても警告灯がついていない?
ここが今回一番伝えたいところです。
車のコンピューターは、異常を検知するとDTCと呼ばれる故障コードを記録することがあります。

しかし、
故障コードが記録されること
と
警告灯が点灯すること
は、必ずしもイコールではありません。
例えば一時的に異常を検知した。
その後、正常な状態に戻った。
こうした場合、ドライバーから見れば何も起きていないように見えることがあります。
ところが診断機を接続すると、過去に異常を検知した履歴が残っている場合があります。
車は普通に走る。
異音もない。
メーターにも何も表示されていない。
それでもコンピューターの中には、
「以前ここで異常を検知しました」
という情報が残っていることがあるわけです。
警告灯が消えたから「直った」とも限らない
逆のパターンもあります。

昨日は警告灯が点灯した。
ところが今日エンジンをかけたら消えている。
「なんだ、直ったのか」
そう思ってそのまま乗ってしまう。
しかし、これも注意が必要です。
一時的に正常な数値へ戻ったことで警告灯が消えているだけかもしれません。
例えば接触不良。
センサーが一時的に異常な信号を出した。
電圧が一瞬低下した。
さまざまな原因が考えられます。
警告灯が消えたことと、故障原因そのものがなくなったことは別問題です。
もし一度でも普段見ない警告灯が点灯したのであれば、
「消えたからいいや」
で終わらせず、どの警告灯だったのか覚えておいた方がいいでしょう。
可能ならスマートフォンで写真を撮っておくのもおすすめです。
整備工場へ持っていったとき、大きなヒントになることがあります。
では故障コードがあったら部品交換?
ここでもう一つ重要なことがあります。

診断機を接続する。
故障コードが出る。
例えば、
「○○センサー系統異常」
と表示された。
では、そのセンサーを交換すれば直るのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
これが故障診断の難しいところです。
故障コードは、
「この部品を交換してください」
という注文書ではありません。
あくまで、
「この系統で異常を検知しました」
という手掛かりです。
センサーそのものが壊れているかもしれません。
配線が断線しているかもしれません。
コネクターの接触が悪いかもしれません。
電源やアース側に問題があるかもしれません。
別の故障が原因となって、結果的にそのコードが記録されている可能性もあります。
つまり、
診断機をつなぐ
↓
コードが出る
↓
部品を交換する
では、本当の故障診断にならない場合があります。
診断機は整備士にとって非常に重要な道具ですが、答えを全部教えてくれる魔法の機械ではありません。
今の整備士は「機械」と「データ」の両方を見る
昔ながらの整備技術が必要なくなったわけではありません。

むしろ逆だと思っています。
実際の車を見る。
音を聞く。
部品を触る。
電圧を測る。
配線を確認する。
そして診断機から得られたデータを見る。
両方を組み合わせて原因を絞り込む必要があります。
例えば診断機に異常が記録されていても、実車を確認すると原因がまったく別の場所にあることがあります。
反対に、
「車の調子がおかしい」
という訴えがあるのに、故障コードが何も入っていないこともあります。
そうなると整備士は症状を再現させたり、各センサーの数値を確認したりしながら原因を探していきます。
車が高度化すればするほど、
「診断機を持っていれば誰でも直せる」
ではなくなっているように感じます。
中古車でもコンピューターの状態は重要になる
これは中古車を購入するときにも関係してくる話です。

中古車を見るとき、多くの人は、
ボディに傷がないか。
タイヤの溝があるか。
エンジンから変な音がしないか。
走行距離はどのくらいか。
こういったところを見るでしょう。
もちろん全部重要です。
しかし最近の車では、それだけでは車の状態を完全に把握できないことがあります。
外から見るときれい。
試乗しても普通。
警告灯もついていない。
それでも車載コンピューター側に何らかの履歴が残っている可能性はあります。
今後、車がさらに電子化されていけば、中古車の状態を確認するうえでもコンピューター診断の重要性は高まっていくでしょう。
「警告灯がない=故障していない」ではない
車の警告灯は非常に重要です。
もし赤い警告灯が点灯した場合などは、そのまま走行を続けると危険なケースもあります。
しかし今回伝えたいのは、その逆です。
警告灯がついていないからといって、
「車には何の異常もない」
と断言できるわけではありません。
車のコンピューターには、ドライバーが気づかなかった異常の履歴が残っている場合があります。
そして一度点灯した警告灯が消えても、原因そのものが完全に解消されたとは限りません。
車は機械から「走るコンピューター」へ
僕が整備士になった頃と比べると、車は本当に変わりました。

もちろんエンジンもタイヤもブレーキもあります。
今でも車は機械です。
しかし、その機械を大量の電子制御が動かしています。
整備士も、
音を聞く。
目で見る。
触る。
だけではなく、
コンピューターが何を検知したのか。
どんなデータを出しているのか。
そこまで確認する時代になりました。
車は普通に走っている。
変な音もしない。
警告灯も何もついていない。
それでも診断機をつないでみると、
「えっ、こんなの入ってるの?」
ということがあります。
逆に故障コードが出たからといって、その名前の部品を交換すれば直るとも限りません。
今の車の故障診断は、それくらい複雑になっています。
もし一度でも警告灯が点灯したり、
「最近なんとなく車の動きがおかしい」
と感じたりしたら、
警告灯が消えたから大丈夫と決めつけないこと。
人間には見えなくても、車のコンピューターは何かを覚えているかもしれません。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。